金融市場で進む「イタリア売り」

このような異常事態を受けて、イタリアの金融市場も大荒れの展開となっている。主要な株価指数であるFTSE MIB指数は執筆時点(3月18日)の終値で15,120.48ポイント、年初来からの下落率は60%近くと欧州の他の国のみならず先進国一般のなかでも大きい。イタリア経済に対する悲観が、イタリア株の弱さにつながっている。

他方でイタリアの債券市場では、イタリア国債の金利が急騰している。通例、リスク資産である株式が売られるとき、安全資産である国債は買われる。ドイツではそのセオリーが通じているが、反してイタリアでは長期金利が3月前半だけで1%前後から2%台半ばまで急上昇する事態となった。債券市場でもイタリア売りが加速したわけだ。

背景には、景気の腰折れでイタリアの財政が悪化するという懸念がある。もともとイタリアの公的債務残高はGDPの130%程度まで膨張しており、安定・成長協定(SGP)で定められたEUの財政ルール(同60%以内)違反の状態が続いていた。一方でイタリアは、単年度の財政収支をGDPの3%以内に抑えるというルールは順守していた。

しかし今回の景気腰折れで、イタリアの財政赤字は大幅に膨らむことが予想されるようになった。景気悪化にともなう歳入減と景気対策による歳出増が見込まれるためだが、ジュゼッペ・コンテ現政権はEUとの関係も決して良好とはいえず、イタリアが抱えることになる巨額の財政赤字をEUがアシストする気があるのか、市場は疑心を強めたのである。

イタリア危機を招くくらいならルールを変える

3月12日、欧州中銀(ECB)の定例理事会後が開かれたが、その後の会見でのクリスティーヌ・ラガルド新総裁の発言も市場関係者の失望を誘った。記者からイタリアの財政が非常事態に陥った場合、それを支える気があるかを問われたラガルド総裁は、原則論に基づく慎重な言い回しに終始してしまい、市場とのコミュニケーションに失敗してしまったのだ。

危機時に必要なものは、政策当事者が「不退転の決意」を示すことにほかならない。その点でラガルド新総裁は稚拙であったと言わざるを得ないが、中銀実務の経験が皆無である以上、致し方なかったともいえる。彼女だけを責めるわけにはいかないだろうし、本来ならEUの執行機関である欧州委員会こそ、そうした決意を示すべきである。

なおECBは3月18日に緊急声明を出し、12日の理事会で拡大したばかりの量的緩和をさらに拡大、今年末までに7500億ユーロ(約89兆円)の金融資産を購入すると発表した。同時にイタリアを念頭に、特定の国の国債を重点的に買い増す可能性を示唆するなど、タイミングは遅かったが金融当局としてはかなり思い切った手に打って出た。

何事にも原則はあるが、一方で例外もある。コロナショックという言葉が聞かれるようになった現在は、まちがいなく例外の局面だ。このタイミングでイタリア危機を招き、すでに疲労しきったイタリアのみならず、欧州全体の社会や経済にさらなる悪影響を及ぼすような状況になるくらいなら、いっそゲームのルールを変えてしまった方がいい。

たとえばSGPで定められた財政ルールの弾力化や、欧州安定メカニズム(ESM)による国債買取プログラムの要件緩和などで、イタリア財政を支援するスタンスを欧州委員会が見せる必要があるだろう。具体策は何でもいいが、最悪の事態に備えた準備ができていることを明言してくれれば、市場の動揺は早期に収まったはずである。