「これで、俺の講義は終わりだ。あとの判断は、経営者であるおまえに任せる」

「……ありがとうございました」

「おいおい、強盗に『ありがとう』はないだろ」

男は、初めて飯島に優しそうな笑顔を見せた。

「いえ、おかげで会計の重要性がよくわかりました。この銀座のお店は、今月末で撤退して、また地方の小さなお店から出直そうと思います」

「嫁さんには、なんて言うんだ?」

男が心配そうに話しかけると、飯島は、縛られていた手首と足首を撫でながら、ゆっくりと答えた。

「嫁さんには……今日、家に帰ってから、面と向かってじっくり話してみます。考えてみたら、ここまで苦労はたくさんかけてきたんで、今さら、こんな相談をしても、夫婦の今までの人生の評価が、変わるわけないですよ」

「信頼しているんだな」

「どうのこうの言いながら、連れ添って長いんです。それに、今回、また田舎に逆戻りですけど、今度は会計をしっかり勉強してから、この銀座に戻ってきます。そのくらいの根性でやらないと、男としてカッコ悪いですからね」

(構成=斉藤栄一郎 撮影=市来朋久 撮影協力=モナムール清風堂(東京都府中市))

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