マンガ家の負担を最小限に“公式感”を出す
マンガではボツにはしたが、やりたかったネタが描かれることによってマンガ家のモチベーションも上がる。こうして、カバーの描き下ろしはもちろん、挿絵もラフなものが多いながらもマンガ家本人がすべて手がけるものが大半になった。
小説家には原作愛がある作家を選び、それでも登場キャラクターの口調や行動に違和感があればマンガの担当レベルでチェックする。このように原作マンガ家自身の負担は最小限にしながら、ファンが気にする“公式感”を最大化。マンガのTVアニメ化企画が決まると、ノベライズもスケジュールを組んで放映時には複数冊が書店に並ぶようにして売り伸ばし、金銭面でも原作者に報いる。
こうしてJUMP j BOOKSは作品面でも流通面でもマンガノベライズにつきものの困難を打ち破る施策を行い、常識外れの部数を叩き出すレーベルになった。
「やはり、今求められていると思うスピンオフ小説のアイデアを原作サイドに提案するというのが大前提で、その部分は作家さんとかなり打ち合わせをします。今はSNSなどで読者の反応をリアルタイムで得られることもあり、本編の盛り上がりにあわせて、どういったキャラクターをどう見せていくのかをかなり意識して企画を考えていますね」(集英社JUMP j BOOKS編集部 中本良之氏)
『鬼滅の刃』小説版の秘訣
『鬼滅の刃』小説版は、カバーや挿絵は原作者の吾峠呼世晴が手がけ、2019年9月にTVアニメ放映が終わった直後の翌10月に小説版『鬼滅の刃 片羽の蝶』を刊行した。
しかもアニメの終盤に登場した、鬼と呼ばれる敵を討つ“鬼殺隊”の幹部である「柱」と呼ばれる存在たちを中心的に描いた短編集であり、原作でも描かれていないエピソードが読める。
※編集部註:初出時、「“鬼滅隊”の幹部である『柱』」としていましたが、正しくは「“鬼殺隊”の幹部である『柱』」でした。訂正します。(4月3日16時00分)
また、原作コミックスに巻末のおまけとして原作者がお遊びで描いていた「中高一貫!!キメツ学園物語」という、現代の学園に各キャラがいたら……という内容のスピンオフを小説化したものも収録した。
『鬼滅の刃』は近年の少年マンガには珍しく、人気のあるキャラクターであっても次々に死に、あるいは戦線から撤退していく。だから強烈な印象を残して去っていった「あのキャラの話がもっと読みたい!」というニーズを抱えている原作ファンは、小説でバックストーリーや学園ものが読めるとなれば、買ってしまうに決まっている。