「もう1つ、不動産価格に影響を与えるのが2022年問題です」

東京都には約3300ヘクタールの生産緑地がある。生産緑地とは都市計画のために、30年間の営農の義務の代わりに税制が優遇されるという制度。区部でも428ヘクタールの土地が生産緑地になっている。

「この期限が最初に来るのが22年で、登録されている農地のおよそ8割が期限を迎え、延長措置は講じられたものの、都市農家の多くが高齢化し、事業承継が進まないなか、都市農地がマーケットに供給される可能性が高いのです」

家あまりの時代、進む「街間格差」

需要が減って供給が増えるとなれば、郊外の住宅地を中心に東京の地価は下落する。

「買い手・借り手市場になる。つまり、賃貸だろうと購入だろうと住む選択の自由度が増すわけです」

働き方が変わりつつあることも、住まい選びに関わってくる。

「情報端末を使って好きな時間に好きな場所で働く。企業も都心に大きな本社を構えるよりも、社員には自宅やコワーキング施設で働いてもらったほうがオフィス賃料などの固定費が浮き助かります。通勤の必要が減る傾向はますます加速するでしょう。

現役世代は共働きが主ですから、通勤に便利な街を選好していますが、住宅選びの動機としてはベッドタウンですから、昭和・平成の住まい選びと変わりありません。

それが、住む街で多くの時間を過ごすとなれば、保育所が近いとか、駅から何分とか、ましてや買った家がこの先値上がりするかという古い発想では対応できなくなります。もっと自分のライフスタイルに合った街で『住む』『暮らす』ことを考えるようになるはずです」

家あまり時代になるとともに、選ばれる街とそうでない街は厳しく選別される。これまでの23区格差、路線格差とは次元の違う「街間格差」が進むと予想する牧野さんは、これから輝くのは、定期的に人が入れ替わる新陳代謝が活発な街だと言う。

高度成長期やバブル期、郊外にできたニュータウンの多くは現役世代への引き継ぎがうまくいっていない。1度に出来上がった建物群には同じような年齢、年収、家族構成の世帯が一斉に入居するため、ある時期に一気に街全体が衰えてしまう。タワマンにも同じことが起きないとは言えない。

そして、定期的に人が入れ替わるためには、現役世代が受け継ぎたいと考えるような魅力が街にあるかどうかだと牧野さんは言う。

「一言で言えば、この先輝く街とは、金太郎飴のような街ではなく、キャラが立った街。そこならではの文化やコミュニティの魅力を持った街です。これからの住まい選びは、自分が生活の根を下ろしたいという街を、じっくりと、背伸びしない範囲で選ぶことです」

牧野知弘
オラガ総研代表
不動産事業プロデューサー。東京大学経済学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティングG、三井不動産を経て現職。著書に『こんな街に「家」を買ってはいけない』『街間格差』ほか。
【関連記事】
タワマン「年収10倍住宅ローン」の末路
「ムサコはもう無理」トイレ禁止タワマンの末路
武蔵小杉の「トイレ禁止タワマン」に新たな火種
「終電早めます」JR西が暗に伝えたいメッセージ
43歳で無収入"子供部屋オバサン"の危険な末路