事を急ぐ習近平、対抗するアメリカ

中国の強硬で暴力的な香港制圧は今でも続いている。当初、中国共産党は香港の独立運動の制圧、2020年の台湾総統選挙における共産党系候補の勝利をもって、中国沿海の太平洋軍事ラインを大きく拡大するつもりでいた。

「2021年7月23日は中国共産党結党100周年。習近平氏は、それまでに「われわれは『中国100年の恥』を払拭ふっしょくした」と宣言するため事を急いだ」(陳氏)

「中国100年の恥(百年国恥)」とは、1840年のアヘン戦争以来、イギリスや西洋帝国列強から好き勝手に侵略を受け続けたことを指す。もちろん日清戦争の敗戦や、日本からの「対華21箇条の要求」、そして南京事件もその「受けた恥」の中に入っている。その恥を払拭するために、マカオ・香港の返還、日本に取られた台湾の奪還と打倒日本、そして世界侵略へと続く考え方だ。

しかし、この中国の新中華統一および世界覇権に、アメリカが対抗措置を講じた。特に目立つのは、2019年11月20日にアメリカ下院議会で可決・成立した「香港人権・民主主義法案」だが、それだけではない。アメリカと台湾の高級官僚の相互訪問を促進する「台湾旅行法」の可決、事実上の在台アメリカ大使館といえる米国在台協会(AIT)新庁舎の建設、台湾へのF16戦闘機の売却、台湾の国際機関参加への支持や台湾の孤立を防ぐための働きかけ、最近では台湾を「国家」と表記した国防総省の報告書など、中国共産党の台湾統一構想を阻止するためのアメリカの攻勢は、露骨で強烈だ。

香港と台湾がどれだけアメリカにとって核心的利益であり、中国の世界侵略の防波堤であるかは、アメリカ第7艦隊が台湾海峡を2019年だけで9回通過していることからも明らかだ。これらが台湾独立・現体制への明確な支持表明であることは台湾市民も理解しており、蔡英文総統の再選の後押しにもなったはずである。

香港デモへの反応が薄すぎる日本

ひるがえって日本はどうなのか。陳氏は、「日本には世界第3位の経済大国としての自覚と自信を持って、今後の世界の行く末を見据えたリーダーとしての正しい決断をしてほしい」と期待を寄せる。

しかしその日本は、香港のデモに対して議員が個人的に香港への危惧や支援・理解を示すものの、国会では政府の見解の発表や声明の議決にまでは至っていない。「平和的に話し合いで解決してほしい」と記者の質問に答えるのが関の山だ。香港民族党の陳浩天党首が来日し訴えても、周庭氏が来日して流暢な日本語で講演したりTwitterで呼びかけたりしても、反応は薄い。