天然ガスの備蓄は20日分程度のみ

一方、天然ガスの備蓄は20日分程度である。天然ガスは常温では気体なので、液化天然ガス(LNG)として備蓄するためにはマイナス162度以下の極低温にしておく必要があり、備蓄にコストがかかるからである。約20日間という短い期間では、原発再稼働による電力確保は間に合わない。

ただ、幸いなことに天然ガスの産地はあちこちに散らばっているので、中東依存度が石油ほどには高くない。2017年のデータで中東依存度は21.0%、ホルムズ依存度は17.7%である。ホルムズ海峡が封鎖されても、112日程度は大丈夫である。

しかし、112日は242日の半分未満である。ホルムズ依存度は低いものの備蓄量が少ない天然ガスは、少なくとも日本にとっては地政学的に脆弱ぜいじゃくな燃料である。

地政学上リスクが高い天然ガス

近年、アメリカで石炭火力発電の勢いが衰え、天然ガス発電のウエートが高まっていることを理由に脱石炭は時代の流れとする意見もある。しかし、アメリカで天然ガス発電の割合が増えているのは、シェール革命により天然ガス価格が下がっているからである。

アメリカのように天然ガスが国内生産されていてエネルギー安全保障上の懸念がなく、ガスの生産地と消費地がパイプラインでつながっているために輸送コストが少ない国と日本は単純に比べられない。

日本の天然ガス国内生産量は3%であり、残りは輸入に頼っている。日本は、島国であるために生産地からパイプラインを敷設できず、マイナス162度まで冷却して液化天然ガス(LNG)にして船舶で運送しなければならない。そして、LNGの備蓄量を増やすのは難しい。

エネルギー安全保障はリスク分散が基本である。天然ガス発電を排除したり、わざと比率を下げたりする必要はないが、天然ガス価格の動向に応じて民間事業者が対応するのに任せればよいのではないか。天然ガス価格は下落傾向なので、今後比重が上がっていくことが予想される。

それでも、天然ガスは備蓄が少ないために日本にとって地政学上リスクの高いエネルギー源であることは変わらない。

石炭は「ホルムズ依存ゼロ」

2017年の石炭の輸入先をみるとオーストラリアが73%、インドネシアが12%で、これら2カ国で85%を占める。オーストラリアやインドネシアからは太平洋を通る航路がいくつかあり、ホルムズ海峡のような大きなボトルネックはない。

石炭の輸入先も、これはこれで偏ってはいる。しかし、中東からの輸入がなく、ホルムズ海峡を通らなくてもいい点はメリットである。石油はホルムズ依存度が高く、天然ガスは備蓄が少ないので、石炭がある程度の割合で使われていればホルムズ海峡に何かあったときの保険になる。

また、日本国内にもかなりの石炭がある。高品質なものだけで3億6000万トンの石炭があるとされる。これは、日本の石炭消費量の約3年分である。オーストラリアなどの石炭にコスト的に太刀打ちできないので採掘されていないだけである。