休んでいるのに働いたのと同等の給与が付く有給休暇。改めて考えると不思議な制度である。給与を「労働の対価」として素朴に捉える人なら「休暇を取るのにお金をもらうのは申し訳なく、かえって取得しづらい」「休みである以上は無給で構わないから、そのぶん就業日の給料に上乗せしてほしい」と考えるのが自然かもしれない。
労働基準法115条により、有休はわずか2年で権利が消滅時効にかかってしまうが、手持ちの有休をすべて使い切る社員は、日本では全体の3分の1ほどしかいない。国際的に見れば最低水準にあるそうだ。ほとんどのサラリーマンやOL、アルバイトやパート従業員は、有休の権利を大なり小なり切り捨てて働いていることになる。使わずに余らせて消滅しそうな有休がもったいないと考えた社員が、代わりに会社に対して金銭的補償(いわゆる「有休の買い取り」)を求めることはできないのか。
有休買い取りに関する判例ではないが、昭和48年の最高裁判決は「有給休暇を『与える』とはいっても、その実際は、労働者自身が休暇をとること(すなわち、就労しないこと)によってはじめて、休暇の付与が実現されることになる」と述べた。つまり、社員が仕事を離れ、実際に心身を休めてリフレッシュする目的で使われるべきなのだ。有休の買い取りが「お金は出すから、休まないで仕事してほしい」という会社の都合で使われるなら、制度の本義から外れてしまう。よって、有休の買い取りは認められないのが原則だ。
ただし、有休制度の本義から外れず、乱用されるおそれがなければ、例外的に会社が買い取ることもできる。たとえば、すでに2年の時効で消滅した有休や、退職しようとする時点で余った有休などだ。とはいえ、社員が余らせた有休の買い取りに応じるかどうかは経営判断の問題である。有休買い取りの法的義務までは会社に課されない。
労働問題などの会社法務に精通する、弁護士法人アヴァンセの金崎浩之弁護士は「実際に有休買い取りをしている会社は聞いたことがない」という。