歯を失う最大の原因は、今は虫歯ではなく「歯周病」。歯の周囲に付着したバイオフィルム(細菌叢を表すプラークのこと)は歯面に沿って下へ下へと降り、歯肉との間を下へと入っていく。そしてバイオフィルムの毒素で、まずは歯茎に炎症が起きる。

炎症は人間が体を守ろうとする免疫反応。ここに白血球等が集合するため、血管は太く壊れやすくなり、出血も起きやすくなる。これが歯肉炎の状態で、歯周病の第1段階。ここで抑えないと歯周炎、いわゆる歯槽膿漏症となる。

さらに進むと歯が埋まっている歯槽骨が退き、歯を支えきれなくなって歯は抜け落ちてしまう。歯肉に炎症が起きた場合は、なにはともあれ、歯周病の専門医を受診すべきである。

診察では問診の後、赤い染め出し液を使って「プラークスコア」をチェック。次に歯と歯肉の間のポケットの深さをはかる。深さで重症度がわかるし、歯周ポケットにプローブを入れて出血するようならば、炎症があり、バイオフィルムが付着している証拠。

このほかに、ピンセットで歯を動かしてみる「動揺度検査」、歯槽骨の状態をみる「X線検査」などを行って診断を下す。

ここで歯周病と診断されると、治療に入るが、すべて歯科医だけの努力で歯周病を治すのではない。歯肉より上は患者が責任を持って磨き、歯肉より下は歯科医が責任を持つことになる。

実際に、歯肉縁下のバイオフィルムを歯磨きだけで減らすのは至難の業。それが歯石となると除去は難しい。

歯周病の原因であるバイオフィルム、そして歯石を取り除くには、スケーラーという器具を使って削り取る。奥深いところを削るには痛みが生じるので、局所麻酔をかけて行う。今はスケーラー以外に、超音波で刃の先端を振動させて歯石を除去する「超音波スケーラー」が使われている。

歯周病が重症になると歯肉を切開して歯石を除去する外科的治療も行われる。

治療後は、患者自身がバイオフィルム・コントロールをどれだけしっかりできるかがカギになる。もちろん基本は毎食後の歯磨き、ブラッシングである。

これがしっかりできないと、元の木阿彌になってしまう。結果、歯が支えを失って抜けてしまう。こうなると高度先進医療の世話になるしかない。それには「GTR法」と「エムドゲイン法」がある。

「GTR法」は患部を清潔にし、歯肉と歯槽骨の間に自然吸収膜を入れて歯槽骨を覆う。さらに歯肉もその上に覆うようにして縫い合わせておくと、4~6週間後には歯周組織ができ始め、半年後には歯周組織は再生している。いわゆる先端をいく再生治療である。

一方、「エムドゲイン法」は歯根ができるときにある種のたんぱく質が分泌され、それにより歯周組織ができる点を利用した再生治療。ブタの歯の周囲から抽出されたゲル状のエムドゲインを患部に塗って行う治療である。

両方とも口腔衛生を保持できる患者と歯科医があって初めてできることである。

 

食生活のワンポイント

ブラッシングが基本だが、そのうえで食生活となると、基本は3点。

(1)禁煙する!
 たばこは毛細血管を収縮させ、歯肉の血行を悪くするので歯周病が悪化してしまう。ぜひ、禁煙を。

(2)よくかんで食べる!
 口に物を入れたら30回以上はかんで食べる。消化をよくする物質が唾液とともに出てくるし、免疫力もアップする。

(3)海藻類やきのこ類を積極的に摂る!
胃腸は免疫に大きくかかわる。規則正しい腹八分の食生活に加え、海藻類やきのこ類を積極的に摂るようにすると、体内で悪さをする物質を排泄してくれる。結果、免疫力がアップする。