新興国が覇権国を脅かしたケースは過去500年で16回ある

1番目の大局的な問題ですが、これは「トゥキディデスの罠」で説明できます。中国は平和的台頭を望んでいました。アメリカの前政権は、中国が日独の先例にならって米国主導の国際的秩序において責任あるステークホルダーとしてのポジションに就くことを期待していました。しかし、そのような米中の期待が覆されたのはなぜなのでしょうか。一言で言うと、その答えは「トゥキディデスの罠」にあります。

「東京会議」に登壇したグレアム・アリソン氏(写真提供=日本アカデメイア)

中国は急速に台頭してきた強国です。一方、米国は強大な覇権国家です。台頭する新興国家が覇権国家に取って代わろうとするときには、極度の危険が待ち構えていることを知らせる警鐘が必ず鳴ります。過去500年のうち、新興国家が覇権国家を脅かす状況が16回発生しました。その16回のうち12回が最終的に戦争に至りました。

日本はこれらの16回のうち、19世紀末と20世紀の2回において重要な役割を演じました。1回目はロシアと中国に挑み、2回目は20世紀半ばに米国が日本の台頭に抵抗したときに真珠湾攻撃をしました。(米国務長官などを務めた国際政治学者の)ヘンリー・キッシンジャーが1996年に、「トゥキディデスの罠は、最近の雑音やニュースを見通して米中関係の根底にある力学を見ることができる最も適したレンズである」と言いました。

アメリカと中国の対立競争は今後より強まる

2番目として、米中の相対的な力に何が起こったのでしょうか。冷戦終結以降、ほとんどアメリカは一極構造の世界が続くだろうと期待していました。しかし構造的転換が起こりました。過去の歴史を見ていても、新興国が短期間のうちにこれほど大きく、これほど多くの次元で台頭した事例はありませんでした。例えばチェコのハヴェル元大統領の言葉を借りるならば「あまりにも速く事が進んだので、驚く時間さえなかった」というわけです。

3番目に、対立と競争は不可避なのでしょうか。答えはイエスです。不可避です。「中国の偉大な復興(メイク・チャイナ・グレート・アゲイン)」という習近平中国国家主席の夢を中国が実現すると、米国人は当然、自分たちのものだと思っていた地位や大権をなくして、特に「アメリカの世紀」の後を中国が侵害することは避けられないわけです。

アメリカ人が自分たちの空間だと思っていた場所に中国がどんどん進出してきていると感じると、米国人は警戒感を強めて、押し返そうとするでしょう。これを単にトランプ流の回り道と考えるのは考え違いだと思います。民主党候補者がトランプに対抗して勝つことになると、もっと反中国的になるでしょう。