「私も行って、殺されていればよかった」

自殺系サイトの掲示板や心中の相手募集では、よく見られる内容だ。自殺をめぐるネット・コミュニケーションでは、手段や道具などについて、具体的な話になっていくことは珍しくはない。

直美とのやりとりは、無料通信アプリ「カカオトーク」に移行し、首吊りの具体的な方法を伝えていく。情報は正しく、もし直美が実行して死んでしまったら、ネット心中するとして呼び出せなくなるが、白石はあまり考えていないのか。

数に頼るナンパ師のように、数多くやりとりをしている被害者予備軍のひとりだから、会えなくても仕方がないというくらいにしか思っていなかったようにも見えるが、むしろ被害者になる自殺願望が強い人からは、信用できる人と認識される可能性が高い。

現実社会では自殺の話ができることは少ないなので、そうしたやりとりができる相手は貴重なのだ。とはいえ、直美が白石に会うことはなかった。「(白石は)カカオで通話したがっていました。『信用できたら、会いませんか?』とも言っていました。たまたま、別の人と電話をしていたので、通話することはありませんでした」。

ただ、こうも振り返る。「本当に殺してくれるのか、言っていることは本当なのか、と考えました。でも、神奈川は家からも遠いし、何もなかったら、時間と交通費だけがかかるだけ。でも(報道を見て)言っていることと同じことをしたんだな、と思いました。本当のことを言っていたんですね。私も行って、殺されていればよかった」。

引き寄せられた女が抱く「絶望感」

自殺未遂を繰り返したり、自殺を考えている人の中には、殺されたい願望を持つ人がいる。直美はまさにそのひとりだ。直美は家庭が居場所と思えず違和感を抱いていた。高校に通っていた頃、そんな悩みを聞いてくれたのは、フェイスブックで知り合った30代の自称医師だった。

その年の冬、自称医師に呼び出され、秋葉原に行った。当時公務員を目指していた直美は、将来の話がしたかった。自称医師から「誰もいないところで話をしよう」と言われた彼女は、彼を信用して自宅に向かった。すると態度が急変し、レイプされてしまう。

病院で心的外傷後ストレス障害と診断された。「(自称医師は)ネットで知り合った最初の人で、信用していました」「最初は外にも出られませんでした。学校にも行けない」。直美は高校を中退した。