理屈がないと消化不良になる

日本に目を向けると――。

長嶋茂雄の有名な話として、球場に連れて行った長男の一茂を忘れて帰ってきたというのがある。打撃のことに入れ込みすぎて他のことを忘れてしまったのだろう。これは長島の“天然”な面として微笑ましく捉えられているが、普通では考えられない。

また、監督時代、他人に理解できないオノマトペを多用した指導など、彼の愛嬌あるキャラクターがなければ、変人である。

また、長嶋の同僚であった王貞治も同じである。

ぼく個人は彼がフロント入りした後の穏やかな姿しか知らない。ただ、当時を知っている人からは、王の激しい気性、打撃に対する思い入れは聞かされたことがある。そもそも彼のトレードマークとも言える一本足打法を掴んだのは、日本刀を使っての練習であることは有名である。その練習を強いた荒川博も、それを疑うことなく従った王も奇人である。

近年、最高の打者であるイチローもそこに加えていい。

イチロー・インタビューズ』で著者であるスポーツライターの石田雄太はイチローに丹念に話を聞いている。その中にこんなやり取りがある。

〈――自分自身で、“鈴木一朗”って、どんなヤツだと思っています?

【イチロー】うーん……どんなヤツだろう。まあ、つきあいづらいヤツだろうね(笑)。どっちかというと、理屈で話を進めていくタイプだから。理屈じゃないところが多い人って、けっこういるじゃないですか。僕はそこを突いていっちゃうわけですよ。そうすると、「やなヤツだなあ」って思われるでしょう。それは、つきあいづらいですよね。そうじゃないと納得できない性格だから。理屈で理解させてくれないと、消化不良な感じがするんです〉

ぼくはイチローと親しかったスポーツライターの永谷脩の担当編集者だった時期がある。そのため、ぼくは彼と軽く接触したことがある。彼の自己分析通り、どこか他人を突き放したような印象を与える男だった。

衝突を厭わず渡り歩く浪人

前出の佐伯も取材嫌いで知られている。

ぼくは佐伯の恩師である尽誠学園の監督だった大河賢二郎を通じて、彼に連絡をとった。しばらくして、佐伯からぼくの携帯電話に連絡があった。伊良部さんについてはまちがった情報ばかりが出ているので話したくない、しかし、監督からの頼みなので会う、話すかどうかは会ってから決めてもいいか、という。取材に対してこうした返事が来たのは初めてだった。

横浜の繁華街の彼の指定した店の個室で会うことになった。最初、彼は半ば喧嘩腰だった。ぼくが伊良部について丹念に取材を続けていることを説明すると、次第に表情が柔らかくなった。そして話が止まらなくなった。4時間ほど話を聞いた後、彼は駅までぼくを車で送ってくれた。取材中、酒を一滴も飲まなかったのだ。ぼくにとって最も印象に残る取材の1つになった。自分のバット――刀一本に拘り、衝突を厭わず渡り歩く浪人のような男だと思った。

いい打者のSIDは「奇人変人」的な「求道者」的性格なのである。(続く)

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