過去の反省を生かした「無理のない働き方」をスタート

一所懸命に業務に取り組みながらも、どんどんと痩せていく姿を心配してか、部下が熱心にサポートしてくれた。

妊娠6カ月ほどで少し悪阻がおさまったので、「今までまわりに迷惑をかけた分がんばらなくちゃ」と根をつめて働いた結果、切迫早産の兆候があって一カ月会社を休むことになってしまう。無事に男児を出産し、育休明けで復帰したのは2017年。長女は小学一年生になり、息子は保育園へ。二人の子育てと向き合うなかで、高橋さんはひそかな覚悟を秘めていた。

「一人目のときは時間管理ができなかったんですね。子どもも帰りが遅く帰るから、早く寝かせられない。料理もちゃんと作りたいけれど、買ってくるお惣菜が多くなる。何とか生活はまわっていたものの、そういう日々がつづくことで自分が精神的にちょっとまいってしまった。だから、もう無理をしないと決めたんです」

以降は、朝7時半に息子を保育園に預けて、夜7時半には退社。そう徹底することで、時間内に仕事をこなそうと思った。

職場へ復帰する際、まず支店長にそのことを伝えた。最初に意思表明して、「この人は夜7時半までしかいられない」と周りに理解してもらうことが大事だと考えたからだ。

「無理なことを最初にできると言ってしまったら、周りにも『高橋さんはできるって言ったから』と当てにされます。例えば、夜8時に帰っている人が、7時に退社すると『何でこんなに早いの?』と思われてしまう。そこから歪みが起きることもあるので、自分にできる範囲内でしっかりやる働き方に変えたんです」

そのために心がけたのは、とにかく仕事を溜めないこと。管理職は部下のマネジメントが業務のメインなので、各自の予定をきちんと把握した上で、こまめに進捗状況を確認するようにした。営業で外出していても、自分から電話して「どう?」と様子を聞き、問題があればすぐに対応する。事前に申請書類が必要になるときは、「私は7時半に帰るから、前日のお昼までに出してね」と、早めに出してもらうようにした。

子育てが教えてくれた「人の気持ち」

それまで自分で全部抱えていた業務も部下に分担するようにした。部下はこまめに報告してくれるようになり、仕事への責任感が増しているのを感じている。高橋さん自身も昔より気持ちに余裕が生まれたようだ。

「今は子どもが2人いるから2倍大変ということはなく、たぶん1.2倍くらい(笑)。今は大変というよりも、試行錯誤含めて全部が楽しいです」

例えば、食事はなるべく土日に作り置きしておけば、家へ帰って10分以内でご飯を食べさせられる。今は保育園に預ける時間を延ばさなくても工夫次第で何とかやれるんじゃないかとあれこれ試している最中だそうだ。

こうして働き方を変えることで、子どもを産んでも働き続ける後輩を応援したいという思いもある。それは限られた時間の中でも自分なりに一所懸命働けば、皆が応援してくれることを実感したからだ。

「自分の人生だから、子どもがいることで我慢することはない。自分らしく仕事をしたいという思いがあるなら、誇りをもって働き続けたらいいんじゃないかと思うのです」

さらに子育てを経験したことで、高橋さんは「以前よりも、人の気持ちがわかるようになった」と苦笑する。独身の頃は人を寄せつけないところがあり、自分は数字だけ出せばいいと個人プレーに走りがちな傾向があった。だが、いざ子育てが始まってみると、自分一人ではどうにもならないことばかりであることを痛感する。周りで支えてくれる仲間の優しさが身に染み、心から感謝した。