織田裕二が「ここはミストサウナか!」と突っ込みを入れた

6~8月の平均最高気温は40度以上。カタール・ドーハは灼熱の地として知られている。2年に一度行われる世界陸上は通常8月開催だが、今回は暑さを考慮して9月27日~10月6日というスケジュールだった。

現地で取材してみると、ハリファ国際競技場は屋外スタジアムにもかかわらず気温は25度前後に管理されており、非常に過ごしやすかった。しかし、ドーハの街は暑かった。「世界陸上2019ドーハ」(TBS系)の司会を務めた俳優・織田裕二が中継で「ここはミストサウナか!」という突っ込みを入れたほどだ。

ハリファ国際競技場の外で行われたマラソンと競歩は酷暑を避けるために、前代未聞のミッドナイトレースとなった(マラソンは23時59分、競歩は23時30分スタート)。それでもドーハの夜は暑かった。

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大会初日に行われた女子マラソンは気温32.7度、湿度73.3%。現地を少し歩くだけで、汗が噴き出した。非常に不快感の強い夜になった。日本勢は女子マラソン部長の武冨豊氏(天満屋監督)が、「2時間38~39分台を出せば入賞できる」と予想して、それが的中する。

「3人とも入賞争いをする実力はない。とにかく暑さと湿度があるなかで、3人が交代で引っ張りながら5km19分を切るくらいのペースで行き、最後は元気のある者が上げていけば入賞の可能性はあると思っていました」

日本勢は3.5kmずつ交代で引っ張り、レースを進めた。その結果、マイペースを貫いた谷本観月(天満屋)が徐々に順位を押し上げて、2時間39分09秒で7位。見事、入賞ラインに到達した。

「日中のレースなら死人が出ていたかもしれない」

なお女子マラソンの優勝記録は2時間32分43秒で、1983年から始まった世界陸上でのワーストタイムだった。これは厳しい気象条件が大きく影響している。出走68人中28人が途中棄権しており、日本陸連のある幹部は、「日中のレースなら死人が出ていたかもしれない」と漏らしていた。

男女の50km競歩も非常に過酷なレースになった。金メダルを獲得した鈴木雄介(富士通)は終盤、徒歩のような速度に落として水分を補給したし、トップ争いを繰り広げていた女子選手は黄色い液体を走路にバラまいた。鈴木の優勝タイムは4時間4分20秒。大会記録より30分以上も遅く、過去のワースト優勝記録と比べても10分以上悪かった。

大会9日目の男子マラソンは気温29.0度、湿度49%。身体にまとわりつくような不快な湿気はなく、体感的には涼しかった。このコンディションは日本勢、特に川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)にとっては計算外だったようだ。

「女子マラソンと競歩を見ていて、湿度が高ければ、2時間17~20分が入賞ラインになると思っていたんです。でも、今日は湿度が低かったので前が落ちてこなかった。自分は設定通りに走ったんですけど、作戦ミスでしたね」

川内が想定していたほどの高温多湿の環境にならず、レリサ・デシサ(エチオピア)が2時間10分40秒で優勝。入賞ライン(8位)は2時間11分49秒だった。日本勢は山岸宏貴(GMOアスリーツ)の25位が最高で、川内は2時間17分59秒で29位だった。

陸上競技は「勝負」と「記録」という2つの側面が観衆を沸かす大きな要因となる。しかし、夏マラソンはその1つがまったく期待できない。これは、「スポーツショー」としてファンの要望に応えることができていないのではないか。結果に茫然ぼうぜんとする川内を取材しながら、そんな思いが頭をよぎった。