「本フリー」と「裏フリー」

フリーランスには、特定の職場を持たない「本フリーランス」の他に、表向きは大学病院などに在籍するが、バイトで稼ぎまくる「裏フリーランス」がある。

「ドクターX」でいえば、主人公の大門未知子は本フリーだが、スピンオフドラマ「ドクターY」の主人公でもある医師・加治秀樹は、大学病院に籍を置きつつ得意の内視鏡手術でバイトに励む「裏フリー」である。

女性は本フリーになりやすいが、男性は裏フリーにとどまる者が多い。裏フリーの場合、プライベートでメリットが大きいことがその背景にある。例えば、賃貸マンションの契約時や、合コンでの自己紹介、近所付き合い、子供の受験などにおいて、勤務先を「○○大学病院」と名乗れると極めて便利なのである。

表と裏のフリーランス医師隆盛に釘を刺す動きも出始める。

2018年、日本麻酔科学会は、「週3日以上同一施設に勤務しない医師は専門医更新不可」との新ルールを発表した。フリーランス増加に頭を抱えた学会幹部による、事実上の「フリーランス狩り」だ。程なくして、インターネット医師転職業者は「週3日勤務OK病院」という案件紹介を開始した。現在では「週3日はメイン病院、それ以外はバイトで稼ぐ」という裏フリーが増えている。

「フリーランス医師」と「フリーター医師」

フリーランス医師の中には、「フリーター医師」と呼ばれる一群もある。専門医資格を持たず、売りになるスキルもなく、「健康診断」「予防接種」「寝当直(患者のほとんど来ない当直)」など、医師免許さえあれば誰でもできるロースキル業務で稼ぐ医師である。

医師免許は「日本最強のプラチナライセンス」と呼ばれるだけのことはあって、「健康診断で1日5万円」という案件は多数存在する。「やりがい」「使命」のような医師としての理想はいったん置いて、こういう案件を年200日こなせば、現在のところは年収1000万円が見込める。

人気ドラマと医師の働き方の変遷

だが、こうした状況が続くとは限らない。2018年から新専門医制度が始まり、3~5年目の医師は「内科、外科、眼科……」のような19の専攻科から1つを選んで、登録する制度が始まった。同時に、都市部(特に東京)の専攻医については定数が設けられるようになり、眼科や皮膚科のような「ラクで人気の科」の人数は厳しく制限されるようになった。

厚生労働省は「東京の眼科の定数を絞れば、地方や外科に若手医師が回るはず」と考えたようだが、実際には「東京の希望科に入れない→そのまま東京でフリーター医師」という若手医師が目立つようになった。需要と供給の関係か、東京近辺のフリーター系バイト案件の相場は著しく下降している。