「そっとしておいてほしい」という遺族の気持ち
今年7月、京都アニメーション第1スタジオで起きた放火殺人事件では、被害者の氏名を報じた報道機関に対し、SNSなどで批判の声が相次いだ。
9月に高知市で開かれた「マスコミ倫理懇談会全国協議会」の第63回全国大会でも、このことが話題になった。マスコミ倫理懇には、全国の新聞、放送、通信、出版、広告代理店など211社・団体が参加しており、全国大会には約300人が集まった。
これまでの報道を総合すると、事件直後の7月22日、京アニが京都府警に対し、死亡した35人の実名公表について「控えてほしい」と要望した。その理由は、名前が出ることでプライバシーが侵害され、さらに被害を受ける可能性があるというものだった。
最愛の家族を亡くし、「そっとしておいてほしい」という遺族の気持ちは分かる。たしかにメディアスクラム(集団的過熱取材)による2次被害の恐れもあるだろう。
京アニの要望を受けて京都府警が遺族側に意向を確認すると、21遺族が公表を拒否した。承諾したのは14遺族だった。
京都府警は殺人事件における従来の実名公表の原則に則って、8月2日の時点で葬儀が終わった10人の実名を公表。さらに全員の葬儀が終了した27日に残り25人の実名も発表した。事件発生から40日が経過していた。大きな事件で被害者の実名公表がここまで遅れたのは、過去にはない。異例のことだった。これが被害者35人全員の実名が公表されるまでの経緯である。