一流のリーダーはチャンスがくるとアクセルを踏む

するとEさんは少し考えた後、「自分の意思がなくなる気がします」と答えました。それを受けて、「それでは、真実はなんだと思いますか?」と聞いたところ、「結局、自分次第なんだと思います。今、この瞬間に自分のベストを尽くすことが結果的に周りの人を喜ばせると思います」と、今までにない強い口調で語ってくれました。

そこで、まずは人への接し方や指導者のアドバイスを実行することを小さな一歩としました。それ以降Eさんは、自分らしいプレーを取り戻すとともに、レギュラーの座も取り戻しました。眠っていた力を、自分で引き出すことに成功したのです。

「自分にはこんな思い込みがあったんだ」と自覚するだけでも、その後のパフォーマンスは大きく変わってきます。リーダーがメンバーの思い込みに気づき、本人にも気づかせることができれば、コーチングは成功したと言っても過言ではありません。

「なかなか結果が出せない」というメンバーには、結果を出すことを阻んでいる要因は何か、そして現状を維持するメリットは何か、本人に聞いてみましょう。自分で自分の首を絞めていることに、きっと気がつくはずです。チャンスがくるとブレーキを踏みたくなる気持ちもわかりますが、一流のリーダーはチャンスがくるとアクセルを踏むのです。

部下を悩ませる「励ましの言葉」

みなさんの周りにいませんか? 何かを始めようとする前から「それは無理だ」と否定する人が。脳は単純ですから、「難しい」「できない」と思い込み続けると、実際以上に難しく、永遠にできないように感じられてしまいます。そうすると、せっかく努力しても報われなくなり、本気で取り組まなくなります。これでは、ますます結果が遠のいていくばかりです。

大切なのは、「自分にはできる」「自分は変われる」と知ることであり、信じることです。そのためには、「できない」と思わないように、リーダー自身が発する言葉にも気をつける必要があります。実際、指導者の言葉が心の重荷になり、成長が止まっていたクライアントにFさんがいます。

バレリーナのFさんは、バレエの先生に「自分の殻を破りなさい」と言われ続けていました。そのためはじめて会ったとき、「殻ってどうやって破ればいいんですか」と、真面目な顔で尋ねてきました。フィギュアスケートやバレエなど、体を使って表現する種目の指導者は、選手に対して「殻を破れ」「殻に閉じこもっている」といった表現を使うことが多いように思います。