美容外科や皮膚科クリニックも参入している新型出生前診断
【D:NIPT(新型出生前診断)】
NIPTとはNon-Invasive Prenatal Testingの略。直訳すれば「非侵襲的出生前検査」。日本医学会は「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」と表現しているが、一般には「新型出生前診断」と呼ばれることが多い。
妊婦から採血することで、胎児由来のDNAを採取して解析する。2012年ごろから実用化され、妊娠10週から検査可能で、妊婦の負担が少ない割に検査精度は93~99%と高い。
2017年放送のドキュメンタリー番組「ダウン症のない世界?」(NHK-BS1)では、英国においてNIPTそして胎児異常を理由にした人工妊娠中絶が広く行われ、アイスランドではNIPTと中絶によってダウン症児がいなくなったという現状が紹介された。
一方、日本でもNIPTは実施されてはいるが「安易な中絶をまねく」など批判する団体も多い。日本産婦人科学会は「35歳以上」「専門家による遺伝カウンセリング」など厳しい条件をつけて92の認定施設(表D-1)に限って許可しているが、認定施設が地域によっては極端に少ないケースがあり問題視されている。
認定されていない施設の産婦人科医は妊婦にNIPTをリクエストされても応じることはできない。違反した産婦人科医は日本産婦人科学会から処分されるためだ。
非認定施設「陽性だった場合は羊水検査の費用をキャッシュバック」
そうした状況を見て、2016年から産婦人科学会による処分を気にしない非産婦人科医による非認定施設(表D-2)でのNIPTが急増することになった。美容外科や皮膚科クリニックなどによる参入である。
「妊婦を採血して、外国の検査機関に送り、結果を通知する」という流れなので、特別の技術や設備は要らず、一部の美容外科・皮膚科クリニックがサイドビジネスとして始めたケースもある。
申し込んでも「1カ月待ち」はザラである認定施設では「血液検査の前に遺伝カウンセリングが義務」で2~3回の通院が必須となる。一方、非認定施設では「年齢制限なし」(認定施設の場合は原則35歳以上)、「ネット予約→1回のみ受診して採血→1週間後メールで結果報告」と手軽だ。
NIPTで陽性だった場合には、多くの場合、Eの羊水検査に進むことになるが、前出の非認定施設では「陽性だった場合には羊水検査の費用をキャッシュバック」のようなサービスも普及しつつある。ネットで「NIPT」と検索した場合、トップに現れるのは「非認定施設の派手な広告」なのが現状である。
【E:羊水検査】
子宮に長い針を刺して羊水を採取し、その中の胎児細胞のDNAを調べる検査である。診断精度は非常に高いが、妊婦への負担も大きく、0.1~1%の流産リスクもある。1960年代からの長い歴史があり、認定制度もなく、多くの産婦人科施設で行われている。産婦人科学会もNIPTは厳しく制限する一方で、「羊水検査で陽性→人工妊娠中絶」は事実上、容認している。