ゼロ歳から英語を聞かせれば、子どもはバイリンガルになるのか。人が言葉を学ぶプロセスを研究している、東京大学大学院教育学研究科の針生悦子教授は「『生まれた時から外国語に触れていれば誰でもバイリンガルになれる』というのは大人の勝手な期待。何を学ぶのかは赤ちゃん本人が決めている」という――。

※本稿は、針生悦子『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Neville Mountford-Hoare
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子どもが母語を学ぶのは必要に迫られるから

「小さなうちに母語以外の言語にも触れさせておけば、子どもは“母語と同じように”その言語もラクに素早くネイティブ並みのレベルで身につけられるのではないかしら」

と考えているとすれば、それは、どうやら大人の都合よすぎる期待のようです。

結論として、子どもは母語であろうとラクして学んでいるわけではありません。悲愴な顔つきはしていないかもしれませんが、時間はかかっていますし、相当な努力もしています。そして、子どもにそのような努力ができるのは、それがわかるようになることがぜひとも必要だと実感させる環境が、母語の場合はあるからです。

なお、自分の母語では区別しない音を聞き分ける能力は生後12カ月までに低下するようです。

それならば、その時期に、それらの音を区別する言語のオーディオやビデオを使ったら、聞き分け能力の低下を食い止めることはできるのでしょうか? たとえば日本語環境で育つ子どもでも、ゼロ歳後半のこの時期、英語のオーディオを聞かせたり、ビデオを見せたりしたら、LとRの聞き分け能力は、英語環境で育つ子どもと同じようになるのでしょうか?

赤ちゃんは「音の聞き分け能力」を保てるのか

これは少なからぬ人が考えることのようで、「実はうちの子どもには英語のビデオを見せています」とか、「大人用のオーディオ教材をずっと聞かせていました」という話は、ちょくちょく耳にします。

そこで、ゼロ歳後半の時期の赤ちゃんに、実際に外国語のオーディオを聞かせたりビデオを見せたりして、音の聞き分け能力を保つ効果があるかどうかを調べたのが、アメリカの心理学者クールたちです(※1)

(※1)Kuhl, P. K., Tsao, F.-M., & Liu, H.-M. 2003“Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 100(15), 9096-9101.

この研究では、英語だけが話される家庭で育つ9カ月の赤ちゃんを次のような4つのグループに分けました。

①オーディオ条件(中国語のオーディオを聞かせる)
②ビデオ条件(中国語のビデオを見せる)
③お姉さん条件(中国人のお姉さんに遊んでもらう)
④統制条件(中国語に触れさせることはしない)

①~③のグループの赤ちゃんは、4週間のあいだ、同じ時間、回数だけ、それぞれの方法で中国語に触れる機会を与えられました。なお、②のビデオに登場するのは、③お姉さん条件の女性、また、①のオーディオ条件で聞こえてくるのも、同じ女性の声でした。