「知的障害者5年で2倍」は認知度が高まったから

通常、クラスの中にはADHD(注意欠陥多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)といった診断がついている子どもたちがいることがあります。診断があれば周囲からの理解はまだ得られやすいのですが、クラスで下から5人は困っているにも関わらず診断がつくことはありません。病院に行って色々検査を受けても、IQが70以上あれば「知的には問題ありません。様子をみましょう」と言われ、何らかの支援を受ける機会を逃しているのです。

宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)

ただ、そもそも知的障害自体は病院の治療対象ではありませんので、軽度知的障害であっても気づかれる場合は少なく、診断がつくことも少ないのです。平成30年の内閣府の障害者白書によりますと、知的障害者は約108万人程度いるとされていますが、5年前の平成25年は54.7万人でした。5年間でなんと倍に増えているのです。

通常、知的障害者が急激に増えることはあり得ません。これは何を意味するかというと、知的障害に対する認知度が高まって、療育手帳取得者が増えた結果なのです。逆に言えば、「支援が必要なのに気づかれていない知的障害者がまだかなりの割合でいる」ということなのです。境界知能になるとますます気づかれないため、病院を受診しても適切に診断され、支援を受けられるようになることは、通常はありえません。また、病院の医師やスタッフも、具体的な支援の方法を持ち合わせているわけでもありません。こういった子どもたちが困っている現状は、依然としてそこにあるのです。

気づかれないから警察に逮捕される

これらの兆候が小学校で見逃されたまま、中学生になると、対応がますます困難になっていきます。小学校では、ストレスを溜めながらも何とか先生に支えられて卒業できても、中学に入ると状況が一変します。

「中1ギャップ」といわれる環境の変化があります。中学生になると思春期に入り、それだけでも不安定なのですが、定期テスト、先輩・後輩の関係、クラブ活動、異性との関係など、それまでと大きく変わった環境の中で子どもにとっては大きなストレスがかかります。親に対しても、依存しながら反発する、を繰り返しつつ、しっかり受け止められていれば次第に安定していきます。

しかし、支援が必要な子どもたちは、これらの変化に自分で対応していくことはとても困難です。そこでかなりのストレスを感じてしまうのです。通常は、まず学校に来なくなります。学校に来てもエネルギーをもてあましているので、教師に暴力を振るう、物を壊す、不良仲間とつるむ、夜間徘徊する、タバコを吸う、自転車を盗む、といった不良行為や問題行動を繰り返すので、学校ではお手上げになっていきます。こうなるとあとは警察に補導されたり、逮捕されたりすることにつながっていくのです。ですから、そうなる前の小学生のうちに、如何に早くサインをキャッチして対応するかが大切なのです。

サインをキャッチしたら、できるだけ早く支援につなげ、彼らを社会の中で生きやすくしてあげるための手だてを考えなければなりません。私の近著『ケーキの切れない非行少年たち』では、彼らを取り巻く社会的な状況と問題の構図、そして彼らを社会の中で生きやすくするための支援プログラム「コグトレ」について紹介しています。

宮口 幸治(みやぐち・こうじ)
児童精神科医/立命館大学産業社会学部教授
京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務、2016年より現職。困っている子どもたちの支援を行う「コグトレ研究会」を主宰。医学博士、臨床心理士。
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(写真=iStock.com)