セクハラを受けた女性が上司に謝る、不可思議な縦社会

【羽田】前職は大手金融系なので、本社は整備されていたのかもしれません。ただ、現場レベルで適用されていたかと言うと疑問です。私、2016年末に前職を辞めた理由がセクハラなんですよ。

【白河】そうなんですか?

【羽田】毎日毎日セクハラを繰り返されて、仕事を続ける気力がなくなってしまったんです。決定的だったのは、心底嫌になっていた時期に、「肩ももうか」って支社長に手を置かれた日の出来事でした。私は「やめてください」って手を振り払ったんですが、その日の夜、上司にあたる同じ年の男性に「謝りに行こう」と諭されて。彼のさらに上司から「あの態度は何だ」と怒られた、と。その話を聞いて、私はもうこの会社にはいられないと辞める決意をしたんですよね。

【中野】それで、謝りに行った?

【羽田】はい。

【白河】ひどいですね。支社長はどんな反応だったんですか?

【羽田】わかったならいいよ、みたいな。立場的な部分も含めて、上司の気持ちもわかるんですよ。上司ももっと上の人に気遣って、部下を守れない。ただ、これを耐え忍ぶ意味ってなんだろう、と。実は、それまでも匿名でコンプライアンス室に通報したり、本社宛てで手紙を出したりしたことはあるんです。でも、会社は絶対に動かなかった。本社としては、支社長をそこに配属すると決めた役員の名前にも傷がつくからという事情もあったらしくて……。

人材不足や社内政治で、セクハラは繰り返される

【羽田】結局、社内政治が優先されるんですよね。でも、辞める前にどうにかしたいなと思ってて。

【近藤】どうしたんですか?

【羽田】初めは実名でコンプライアンス室に言おうかとも思ったんですが、会社が動かないなら社長を動かそうという発想になったんです。社長宛てに抗議文を送っても秘書止まりになる。だから、社長の自宅を調べて。辞職願を出し、休職中に社長の個人宅宛てで手紙を出しました。支社でセクハラが多発していて、本社に掛け合ってもこういう対応ですって。

【白河】英断ですね。支社長は?

【羽田】それからは人事異動が早かったようです。支社長は降格して本社のどこかに飛ばされ、営業所には新しい支社長がきて雰囲気がガラリと変わったと聞きました。

【佐々木】結局、そこまでやらないと会社は動かないんですね。

【白河】#MeTooのムーブメント以前に……。勇気がいりましたよね。報復が怖いから、辞めるときに思いきったんですね。

【羽田】ただ絶望的なことに、その支社長は以前も別の営業所でセクハラで降格になっているんだそうです。そこからまた昇格して支社長になっているので、今回もまたほとぼりが冷めたら、役員の誰かにひっぱりあげられて出てくるのかなって。会社としては人材不足もあるんでしょうし、社内政治もあるんでしょうし、セクハラ対策だけでケアできる話ではないなと感じます。

視野の狭い女性が、堅実で実直な女性を追い込む

【中野】セクハラに苦しめられる一方で、セクハラを助長したのは女性側でもあるかもしれない、と思わされることもあります。同時期に入社してきた20代半ばの女性営業が、女を武器にするタイプだったんですよ。

【佐々木】いますよね。飲み会に行くときも、露出の多い服で行っちゃったり、飲み会の席でお客さんにベタベタ触ったり。

【中野】お客さんと二人でタクシー乗っていなくなっちゃったり、平気でする人。彼女はやっぱり業績がよかったんですよ。それで役員たちは、「女はかわいくてきれいなほうが営業成績がいい」みたいなことを言いだして。

【羽田】そう、数字がいいんですよね。

【近藤】同期の女の子が病みませんか? 「自分もやらなきゃ」って思うけど、できない。上手にお酌もできないし、触られたりなんて嫌だし。

【中野】そうなんです。女性は、不快だし自分たちもやらされて嫌だしで、彼女のことを好きになれない。でも役員たちは、「若くないからやっかんで」と彼女をかばうんです。結果、彼女は寵愛を受けて職位もどんどん上がっていきました。

【白河】でもそれって、たまたまのサンプル1ですよね。そういう人が一人いると、その人の売り上げは高いけど周りのモチベーションはすごく下がるから、逆に全体としてはマイナスになるぐらいだったりするかもしれないのにね。

【中野】しかも、彼女が辞めた後に担当についた女性営業は、得意先に目の前で「前の担当者の子のほうがいいんだけど、なんで替わっちゃったの?」と言われたそうです。ため息が出ますよね。