自分は正しいのか、間違っているのか
高いものほどよく感じるのはなぜか。このことは、「認知的不協和」で説明できます。
自分の持っている考えや価値観が正しいと思えているのが、「協和」の状態です。対して、そうは思えない、自分の考えが正しさにそぐわないのではないかという矛盾を抱えて、不安に思ったり、不快感を持っている状態を、「不協和」といいます。
人は、このような「認知的不協和」に陥ると、安定した協和の状態になりたいと強く思うようになる。そうして、不安を解消するために「自分は間違っていない」と思える情報を、かき集めるようになるのです。
自分が間違っていると受け入れることで安定を手に入れることもありうるのですが、それよりも、「自分の意思決定は正しい」と思いたいもの。つまり、「自分がいい買い物をしたのかどうか」を不安に思っているようなときには、「値段に見合わない商品だったかもしれないけれど、仕方がない」と思うよりも、「高かったのだから、いい商品に違いない」と思うほうが、気が楽になるというわけです。高いもののほうがよく感じるのは、そのためです。
この効果を使って、高額な商品を販売するビジネスも、世の中にはたくさんあります。化粧品がいい例です。消費者としては、商品に含まれる成分、その効用について、専門家ではないからよくわかりません。そのため「高いもののほうが、安いものよりも効果が高いはずだ」と考えてしまう。なので、安価な化粧品よりも、高価な商品のほうが人気を得がちなのです。
また、「希少価値の効果」もあります。「誰もが手を出せる安価なもの、簡単に入手できるものは、大したものではない。希少価値があるからこそ高い値段になっているのだろうから、いい商品に違いない」。そう人は思い込んでしまうのです。
「バズった」商品は、本当に価値があるか
スーパーで同じような商品が並んでいた際に、量が減っているほうを選んでしまったことはありませんか? 人は、自由に手に入れられると思うものよりも、「もしかしたら、なくなるかもしれない」もののほうをより欲しがるのです。そんな希少性は値段に反映される、そう思い込んでいるからこそ、「高いほうがいいものだ」と判断してしまう。
また、ネット、SNSの時代になり、インフルエンサーが取り上げた商品、「バズった」ものが売れることも多い。しかし、そんなトレンドも、マーケティング戦略に乗せられているだけかもしれませんし、自分にとって価値があるのかとは、別の話です。
スマホで検索すればいろいろなことがわかってしまう時代、それらのツールをうまく使うことは確かに重要ですが、1度は自分の頭でしっかりと考えるよう習慣をつけることが大事です。そのように自分の頭を使ったことは経験として蓄積され、判断力が養われます。他人の価値観ではなく、すぐに答えを出そうとせずに、間違ってもいいので「自分で判断した」という実感を持つこと。物事の真贋や、自分にとっての価値を判断するのが難しい現代だからこそ、それが重要なのです。
東洋大学社会学部社会心理学科教授
同志社大学大学院文学研究科博士課程後期(心理学専攻)修了。専門は感情心理学。