岩手を含む東北地方は日本屈指の「大物投手」の宝庫

ただ、岩手は彼らが思うほど好投手の「名産地」ではない。そもそも菊池以前に岩手から日本野球史に名を残すような大投手は出ていないのだ。

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それでも彼らは「昔はともかく今は名産地になったのだ」と言うかもしれない。しかし、その要因はとくに見当たらない。岩手の中学・高校野球関係者が好素材を発掘し育成するキャンペーンを行っているとか、どんな凡人投手をも理想的な投球フォームに仕上げるコーチの名人がいるとかいった事実があれば別だが、そうした話は聞かない。短期間で前出の3人の好投手が出現したのは、たまたまそういう流れが岩手に来たというしかない。

とはいえ、対象エリアを東北全域に拡げれば、好投手の名産地といってもいいのではないか。

まず、剛速球タイプの投手が結構出ていること。最近では昨年夏の甲子園を沸かせた秋田・金足農の吉田輝星投手(日本ハム)がいる。吉田は最速152キロの速球を武器に準決勝まで投げ抜いた。

また、日本人で始めて160キロ超の球速を記録した佐藤由規は宮城出身だ。仙台育英高時代に157キロ、ヤクルト入団後の2010年には161キロを記録(プロでの登録名は「由規」)。この球速は今も歴代4位タイだ。その後、右肩の故障に苦しみ、現在は東北楽天と育成契約し、復活を期している。

「大魔神」佐々木主浩は宮城、通算284勝の山田久志は秋田

さらにすでに現役引退した東北出身の選手にも剛球タイプの大投手がいる。

代表格は、横浜ベイスターズで抑えの切り札として活躍し、メジャーでも好成績を残した「大魔神」こと佐々木主浩も宮城出身(東北高)。フォークを決め球にしたが、これが効いたのは150キロを超えるストレートがあったからだ。

剛速球タイプ以外でも好投手は東北から数多く輩出されている。古くは皆川睦雄氏。山形・米沢高から1954年に南海ホークスに入団。アンダースローの技巧派で南海の黄金時代を支えた。通算221勝、最後のシーズン30勝を記録した投手でもある。

青森出身では三沢高のエースとして1968~69年に甲子園のヒーローになった太田幸司氏がいる。高卒ドラフト1位で入団した近鉄バファローズなどプロでは通算58勝にとどまったが、高校時代からその存在感は光っていた。

秋田出身には通算284勝をあげ、プロ野球史上最高のサブマリン(下手投げ)といわれた山田久志氏(能代高―阪急ブレーブス)がいるし、近鉄で活躍したサウスポー村田辰美氏(六郷高)、福岡ソフトバンクホークスのエース格だった摂津正氏(秋田経法大付)、現役ではヤクルトスワローズの左のエースとして163勝をあげている石川雅規がいる。

福島からは大洋ホエールズのエースだった遠藤一彦氏(学法石川)が出ている。通算134勝、クローザーとしても58セーブを記録した頼れる投手だった。

そして再び宮城。大洋・横浜のエースを務め、メジャーリーグでも5球団でいい働きをした斎藤隆氏(東北高)、現役では西武ライオンズと東北楽天イーグルスでエースとしての活躍を見せている岸孝之(名取北高)がいる。