中部電力が菅直人首相の要請を受け容れ、浜岡原子力発電所の全炉停止を発表した5月9日、東京・港区にある小沢一郎元民主党代表の個人事務所は、夜遅くまで明かりがついていた。民主党関係者は「小沢氏と弁護団が夜遅くまで事務所で会議を開いていたようだ」と話す。
小沢氏は自身の政治資金管理団体「陸山会」の土地購入がらみの政治資金規正法違反(虚偽記載)で強制起訴され、裁判を控えている。この日は裁判対策会議だったようだが、東日本大震災の復興・復旧と原発事故対策に社会の関心が集まる中、自らの裁判対策に時間を割かざるをえないところに小沢氏が置かれた状況の厳しさが浮かび上がる。
小沢氏が倒閣ののろしを上げたのは連休前。まず、側近の山岡賢次副代表らが“菅降ろし”を旗印に勉強会を立ち上げた。
「100人は集まる」はずが、実際には64人。それでも小沢氏は5月6日に、「今の原発対応では、日本全体が取り返しがつかない状況に陥る」と菅批判をぶち上げ、倒閣運動を加速させようとした。
ところがその晩、菅首相は突如、浜岡原発停止を中部電力に要請。「日本で最も危険」とされる浜岡原発の停止要請で世論の風向きが変わり、内閣支持率が上昇。連休前に政界で燃え盛っていた菅降ろしの炎が嘘のようにしぼんでいった。
局面転換の要因は浜岡原発停止だけではない。小沢氏側の問題もあった。小沢氏の元秘書3人が虚偽記載で起訴された裁判で、水谷建設の川村尚元社長が「小沢氏側に1億円の裏金を渡した」と証言。5月10日にも、日本発破技研の山本潤社長が、「裏金を渡す現場に同席した」と証言し、小沢氏の「政治とカネ」の問題が改めてクローズアップされたのだ。山本社長は、裏金を渡した後の新幹線の車中で、川村元社長が「税金みたいなもんや」と話していた、などと生々しく証言した。
これに対し、元秘書3人は公判で自らの無罪を主張し、「虚偽記載事件には小沢氏は無関係」と証言している。小沢氏は元東京高検検事長の則定衛弁護士を2つの裁判対策の「事実上の顧問」(法曹関係者)に据えて対策を練っているというが、政治、裁判とも小沢氏を囲む環境は厳しさを増している。