この国では35~54歳の「中年フリーター」が増えつづけている。なぜ彼らは「非正規」から抜け出せないのか。地方の工場や小売店などで住み込みをしながら働いてきた松本拓也さん(43歳)の取材から、「見えざる貧困」のリアルに迫る――。

※本稿は、小林美希『ルポ中年フリーター』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=PIXTA)

リストラからはじまった地獄の日々

「雇用が不安定なまま、40代になりたくなかった。このままでは、結婚はおろか老後だっておぼつかない」

松本拓也さん(43歳)の気持ちは焦る。仕事があれば、地域を選り好みすることもなく、地方の工場や小売店などで住み込みをしながら働いた。いつかは結婚して家庭を作りたいと願っていたが、一定の収入がなければ「婚活ブーム」に乗ることもできない。

拓也さんは、飲食関係の専門学校を卒業したが、不況で就職先が見つからなかったため、レストランなどでアルバイトとして働いた。いったんは関西地方で酒の量販店の正社員になったが、すぐに会社の業績が悪化し社員はリストラされた。翌年、拓也さんもリストラの波に飲み込まれた。ここから、拓也さんにとって雇用の負のスパイラルが始まった。「即日解雇」を言い渡され、会社が借り上げていたアパートの立ち退きまで強要された。仕事と同時に住居を失ったのだ。

貯金もなく、引っ越し費用や敷金・礼金を友人から借金した。生活費もままならず、クレジットカードのキャッシングに手をつけ、消費者金融からも借り入れ、借金は最終的に300万円に膨らんだ。

拓也さんは仕事と住居を同時に失う恐怖を、嫌というほど味わった。

アパートも借りられない

「消費者金融から借金もできない人間はアパートも借りられない」

東京都の「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書」(2018年)によれば、24時間営業のインターネットカフェや漫画喫茶などを「オールナイト利用」している住居喪失者は、1日あたり都内で約4000人いるとしており、そのうち住居を喪失している不安定就労者(派遣、契約、パート・アルバイト)は約3000人と推計している。これは、「ネットカフェ難民」が取りざたされたリーマンショック前後の状況に匹敵する数字だ。年齢別に見ると、30~39歳が最も多い38.5%で、次いで40~49歳が19.7%となる。労働形態別にみても、中年層の30~39歳で不安定就労が38%を占めている。拓也さんも、そうした1人になりかけた。

再就職先はなかなか見つからなかった。アルバイトをしたところで家賃も払えない。住み込みで工場での請負労働を始めることにした。

滋賀県に移り住み、近隣の大手電気メーカーや自動車メーカーの生産現場で、組み立てなどの仕事を始めた。だが、それも業務が縮小されると、契約が途中にもかかわらずクビを切られてしまった。生産が調整されると、同時に雇用も調整されるシビアな現実。業務の効率化とコスト削減が最優先課題とされ、そこで働く人たちの主たる生計が景気悪化で瞬時に揺らいでしまう。