サッカーのワールドカップ(W杯)には巨大市場がある。放映権料やスポンサー料の高騰はとどまるところを知らず、国際サッカー連盟(FIFA)のW杯総収入は3000億円規模にも膨れ上がる。
南アフリカで開幕したW杯。日本代表の応援拠点、東京・代々木の「サムライブルーパーク」をのぞけば、高さ約10メートルの侍ブルーの坂本龍馬像が立っていた。
この巨大龍馬のごとく、W杯もスポーツビジネスの「巨人」なのである。
FIFA協賛企業の最高ランク「公式パートナー」のソニーはW杯で3D(三次元)テレビの市場開拓に打って出た。
「3Dで天下をとるぜよ!」といったところですか、と水をむければ、ソニーの斉藤裕子グローバルセールス&マーケティング本部担当部長は笑った。
「はい。それくらいの勢いです。W杯で“3Dはソニー、ソニーは3D”との刷り込みをお客様にさせていただければ効果あり、だと思います」
ソニーは2005年、FIFAと公式パートナーの契約を結んだ。W杯2大会を含む07年から14年までの8年間、契約料がトータルで3億500万ドル(当時の為替レートで約330億円)といわれた。年平均でざっと40億円。協賛金はそれまでの4倍ほどに跳ね上がった。
もっとも年間4000億円もの広告宣伝費を使うソニーにとっては無理な金額ではなかろう。魅力はFIFAの新たなスキームだった。「パートナー」は6社に限定され、カテゴリーの事業領域が「デジタルライフ」に拡大された。エレクトロニクス・音楽・映画・ゲームなどの幅広い事業で、世界のサッカーと自社を絡めた広告宣伝を展開できるのだ。
サッカーは世界ナンバーワンのスポーツで、とくにW杯は4年に一度しかない。延べ300億人がテレビで観戦する。地域の広がりや年齢層の幅、話題の継続性でも五輪を圧倒する。すなわち「コミュニケーション力」が五輪とはちがうのだ。
斉藤担当部長が説明する。
「われわれソニーが培っているビジネスを全部、投入できることが、契約の決め手だったようです。そして圧倒的なリーチ力。やっぱり全世界のおじいちゃん、おばあちゃんから子どもたちにもリーチできる、それが魅力だったのです」
ソニーはW杯だけでなく、50を超えるすべてのFIFA主催大会も協賛する。サッカーファンである上田俊輔グローバルスポンサーシップマネジャーが補足する。
「グローバルにグループ全体を横断するプラットホームはこれが初めて。小さな大会であれこれと試行錯誤し、本番にどう活用しようかと考えてきました」
大事なことは「投資対効果」である。目に見える協賛メリットは「商品の販売」だろう。今大会の目玉が3Dテレビ。
じつは、と斉藤担当部長が明かす。
「契約時には3Dのことは見えてなかった。でもうちの強みは技術、それを生かさない手はないと考えていました」
3Dの市場開拓を図るため、ソニーは試合の3D撮影をサポートする。全64試合のうち、決勝や日本-オランダ戦を含む25試合が3D専用チャンネルで放送される。FIFAが委託する映像制作会社HBSは試合ごとに通常27台のカメラを配置するが、3D撮影用の7ペア(左右2台)のカメラをプラスする。この映像が3D専用チャンネルに乗り、日本のスカパーJSATなど数カ国のテレビ局に流れる。世界4000カ所のソニーのショールームや小売店などでも視聴体験できるそうだ。