公式な会議で見直しを「指示」した麻生氏

2015年10月16日に首相官邸で行われた経済財政諮問会議。その席上、麻生太郎副総理兼財務相が、毎月勤労統計について「苦言」を呈しているのだ。

「毎月勤労統計については、企業サンプルの入れ替え時には変動があるということもよく指摘をされている。(中略)統計整備の司令塔である統計委員会で一部議論されているとは聞いているが、ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたいとお願いを申し上げる」

公式な会議で、正式に見直しを「指示」されたのだ。厚労省はこれを受けて、統計手法の見直しに着手する。従業員30人以上499人以下の事業所についてはもともと「標本調査」を行っていたが、その対象入れ替えの方法を変えたのだ。

実は、麻生氏がこの調査にかみついたのには理由があった。ほぼ3年に1度行われてきた対象入れ替えは、「総入れ替え」して行われていた。2015年1月にも総入れ替えが行われたが、過去にさかのぼって実績値が補正された。その結果、安倍政権が発足した2012年12月以降の数字が下振れしてしまったのだという。安倍政権発足以降も賃金が下がっている、というのはおかしいのではないか。麻生氏が指摘したというのだ。

「サンプル入れ替え」の影響に気付いていたはず

おそらく、このタイミングで、厚労省の担当者は全数調査とされていた500人以上の大企業が東京都では抽出調査になっていたことに気づいたはずだが、それでも調査方法を全数調査に戻すことはしなかった。この辺りから、意図的な隠蔽が始まったとみていいのではないか。

調査方法の見直しによるサンプル入れ替えが実施された2018年1月以降、賃金指数が非常に高い伸びを示した。麻生大臣にはご満悦の結果になったわけだが、統計を見ているエコノミストの間からは疑問の声が上がった。

「名目賃金6月 3.6%増、伸び率は21年ぶり高水準」(日本経済新聞)

「6月の給与総額、21年ぶり高水準 消費回復の兆しも」(産経新聞)

2018年8月8日、新聞各紙はこう一斉に報じた。厚労省が発表した現金給与総額の伸びの速報値である。その後の確定値では、5月が対前年同月比で2.1%増、6月は3.3%増となったが、このデータが景気回復と賃金上昇を裏付けることになったことは間違いない。ところがエコノミストから「数字が変だ」という指摘が相次いだのである。

実は、対象入れ替えが大きな影響を及ぼしていることに厚労省は気づいていた。そのため、「継続標本」での比較という資料を公表していた。入れ替えの前後で共通するサンプルだけで比較した場合、5月は0.3%増、6月は1.3%増であるという。もちろん、新聞記者はそんな数字には全く気が付かず、厚労省が発表した統計数字を「21年ぶりの高水準」と報じたわけだ。