なぜ月の収入が47万円あるのに、赤字10万円なのか
相談を受けた筆者はこう応対しました。
「たいへんでしたね。お姉さんに現状を理解していただくために、家計の洗い出しから行いましょう。預金通帳とクレジットカードの利用明細書を用意してください。それをもとに、『今の生活を続けた場合』『お父様にもしものことがあった場合』『お姉様が一人になった場合』の3つのシミュレーションをして、お姉様が安心して暮らしていくために抑えておきたい生活費を算出します」
次女は筆者がリクエストした通り、ここ数年間の収支を整理してくれました。その結果、長女の暮らしぶりがくっきりと見えてきました。
・父年金……22.5万円
・母年金……18.3万円
・長女年金……6.5万円
合計 47.3万円
・父入院費……8.0万円
・母施設費……11.0万円
・住居費……1.0万円(固定資産税の月換算)
・自動車保険……0.5万円
・車検……0.5万円(車検費用の月換算)
・ガソリン……1.4万円
・ETC……2.2万円
・宿泊費等……20.2万円
・固定費……4.0万円(水道光熱、ケーブルテレビ、ネット、スマホ、固定電話)
・食費等……10.2万円
合計 58.5万円
父 普通預金 638万円
母 定期預金 600万円
合計 1238万円
長女は月平均24万円も「旅行代」に使っていた
驚いたのは、長女の意思で使ったと思われる支出の多さです。ETC、ガソリン、宿泊費などで、平均すると月24.3万円にも達していました。どうやら月に何度も旅行に行っていて、そのときにかかった費用のようでした。
警察庁によれば、「運転できない」のは、認知症やアルコールなどの中毒の状態にある人とともに、統合失調症の人も含まれていますが、「自動車の安全な運転に必要な認知などに係る能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈しないものを除く」とあり、長女は病状が比較的安定していた時期にドライブを重ねていたと見られます。
次女に筆者はこう伝えました。
「お姉様は働けなくなってからカードは一切使っていなかったようですが、障害年金をもらいはじめてから、カードを使うようになったようです。お父様の入院で、さらに利用額が増えています。管理するお金の額が増えたので、財布の紐がゆるんだのかもしれません」
突然襲い掛かる幻聴、妄想、措置入院……。両親は、普段は優しい長女の苦しみがわかるだけに、お金の使い方に目をつむっていたようでした。
しかし、長女の支出は旅行だけではありませんでした。食費や日用品はネットでどんどん注文していました。これらを合わせると、月の支出は34.5万円。さらに、父の入院費(月8万円)、母の施設利用料(月11万円)、水道光熱費などの固定費(月4万円)を合わせると、支出は月58.5万円になっていました。
両親はそれぞれ年金を支給され、長女も障害者年金をもらって、世帯の月の「収入」は47万円以上ありましたが、毎月10万円以上の赤字で、両親の退職金を取り崩しながら暮らしている状態でした。退職金はまだ1200万円以上残っていますが、いずれ底を突きます。