そもそも、米国は前述の多国間協定にも参加していない。それゆえ日本の税務当局は米国に口座などの照会をかけようがない。「たとえば、デラウェア州にSPC(特定目的会社)を設立して資産を移し、投資による富裕層向けの『EB-5ビザ』で永住権を取得して、フロリダやハワイに家族とともに移住すると、日米の国税当局は相続税の徴税が難しくなります」と奥村さんはいう。

移住先として、米国に次いでおすすめなのがニュージーランド(NZ)。「相続税がないので、世界各国から富裕層が集まっていて、09年にはベネッセ2代目の福武總一郎さんも移住しています」(山田さん)。そのほか、映画監督のジェームズ・キャメロン氏、投資家のジュリアン・ロバートソン氏、最近では米国ペイパル創業者のピーター・ティール氏などもNZの住民となっている。日本と時差が少なく、気候も似ている。不動産価格や物価も香港やシンガポールより安いのが魅力だ。

第3位はシンガポール。「やはり相続税がなく、富裕層に以前から根強い人気があります」(奥村さん)。多民族国家で、多くの日本人が住んでいる。日本と近く、行き来しやすいのも利点。経済成長が著しく、将来性も高い。

以上の移住先ベスト3は、外国人富裕層を積極的に受け入れており、一定金額以上の投資をすれば、永住権の獲得も可能だ。ただし、移転できる資産が10億円以上は必要だが、「自分には無理」と諦めることなかれ。一般のビジネスパーソンでも移住できる国がある。その代表がマレーシアだ。

物価が安いので、大企業を定年退職した人なら、年金収入でも悠々自適の生活を送れるだろう。「NZは最近の移住人気で不動産価格が上昇傾向で、マレーシアに人気の一部が移っています」(山田さん)。10年間のセカンドライフ向けのビザがあるが、更新もできる。しかも、所得税が低く、相続税もかからない。子どもも海外で長期間働いているようであるのなら、国外資産への相続税の免除条件を満たすことも可能になってくるだろう。