追い詰められた富裕層が考えるようになったのが、資産もろともオフショアにフライトすること。17年の税制改正では、国外資産への相続税の免除条件が、相続人・被相続人とも「相続開始前に海外に5年超在住」から「10年超在住」と厳しくなった。そこで「もともと富裕層は、増税しか頭にない日本政府や、資産運用能力のない日本の金融機関を信用していない」(奥村さん)こともあり、彼ら富裕層は本気で海外移住を決断し始めた。
海外に移住した人が税制上、気をつけたいのは、日本に生活根拠がないと証明できるようにすること。「扶養家族も一緒に移住し、自分名義の国内不動産は手放します。日本での仕事は1年以内の短期のものにとどめます」(奥村さん)。ただし、日本滞在を半年未満とする「183日ルール」は気にしなくていいという。基本的に企業の従業員の給与所得に対する課税判定基準で、企業のオーナーのような富裕層は対象ではないからだ。
実は米国こそがタックスヘイブン大国
オフショアと呼ばれる国や地域は多いが、「その中でも最高の移住先」と、識者たちが太鼓判を押すのは、意外にも米国。税の負担率、安全性や生活水準などを総合評価した結果だという。
米国には現在、相続税があるが、その最高税率は40%。基礎控除も543万米ドル(約6億円)あって、実際の税負担は日本よりもはるかに軽い。米国は富裕層を優遇する国で、「チャリタブル信託を設定し、公益事業に一定期間寄付した後なら、信託財産を破格値で相続できるといった抜け道が、いくつもあるのです」(奥村さん)。
あまり知られていないが、実は米国こそ「元祖タックスヘイブン」なのだ。米国は州によっても税制が異なり、国内タックスヘイブンとして有名な東部のデラウェア州は、企業を誘致するため、法人を簡単に設立できるようにし、税も格安にしている。そのため、アップル、スターバックスといった名だたるグローバル企業が、同州に本社登記している。同州政府は「口が堅い」ことでも知られ、「IRS(米国国税庁)から照会があっても、州法による守秘義務を盾に、口座情報の提供を拒むそうです。今やスイスよりも情報の秘匿性が高いでしょう」(同)。