資産運用をしていると、株価の動きが気になる。10年前の「リーマン・ショック」のような金融危機が起きれば、資産は大きく目減りする。売却して、それ以上の損失を防ぎたくなるが、それは間違いだ。元財務官僚の柴山和久氏は「人間の脳は損することを極端に嫌う。だが慌てると、むしろ損失を広げてしまう。資産運用では直感はあてにならない」という。どういうことなのか――。

※本稿は、柴山和久『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いたこれからの投資の思考法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

脳は「損すること」が大嫌い

資産運用をするとき、なぜ直感があてにならないのでしょうか。それは、たとえ一時的にでも、人間の脳が「損をすること」を極端に嫌うからです。

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たとえば、株価が1万円から3割近く下がったとします。これは誰にとっても怖いことです。このため、資産が下がるタイミングで投資し続けることに対し、普通は強い恐怖を覚えます。その後、相場が上がるとわかっていたとしても、その恐怖が和らぐことはありません。

行動経済学の研究では、「損をすること」による感情の揺れは、「得をすること」による感情の揺れのおよそ2倍になるといわれています。

何らかの理由で1万円を失ってしまったと想像してください。次に、何らかの理由で1万円を偶然手に入れたと想像してください。1万円を失ったときの心の痛みは、1万円を手に入れたときの喜びよりもずっと大きいのではないでしょうか。

「損をしたくない」という感情は、人間にとってとても自然な感情です。しかし、ごく自然なこの感情が、冷静な思考を妨げてしまいます。これが、人間の脳が資産運用に向いていない本質的な理由です。

元本から1万円の増減でも大きな不安に駆られる

資産運用と人間の脳の関係について、もうひとつわかっていることがあります。それは、リターンがゼロ付近で動く、つまり元本付近でプラスとマイナスを行ったり来たりするときは、ほんのわずかな変化にも過敏に反応してしまうということです。

資産運用を始めて間もない頃は、リターンがプラスとマイナスを行ったり来たりしがちです。その度に一喜一憂すると、心理的に疲れ果ててしまいます。