安売りで「安いのが当たり前」に
このように安売りすると、お客さんは安い価格でのみ買うようになる。ある大学の先生が、同じ牛乳パックの価格をスーパーA店とB店で変えて2年間販売した結果を分析してみた。
A店は2日に一度の頻度で、198円以下で特売した。結果、売上の9割が特売価格の198円以下だった。B店は、2年間のうち8割の日を228円の通常価格で販売した。結果、売上の8割が通常価格だった。
お客さんは、「A店の牛乳パックは198円」、「B店の牛乳パックは228円」と認識するようになったのである。「安売り」をアピールすると、お客さんは安い価格が当たり前になり、安い価格でしか売れなくなるということだ。ではなぜ安売りすると、安い価格でしか売れなくなるのか。
「お得感」より「損失感」の方が強い
たとえば、モリさんとハラさんが同じ月給としよう。モリさんは、今年も来年も、給料が変わらない。ハラさんは、今年は月給が1万円増えて、来年は1万円下がったとする。来年の時点で二人は同じ給料だが、損失感を感じるのはハラさんだ。
人は月給がアップすると嬉しくなり、月給が下がると悲しくなる。これは当たり前すぎるほど当たり前なことだ。私もボーナスが上がった時は少し嬉しかった。しかし下がった時は、それ以上にものすごくショックだった。ハラさんも同じで、1万円増える喜びよりも、1万円減る損失感の方がショックは大きいのである。
このように人は同じ金額でも、得するという「お得感」よりも、損するという「損失感」の方を、より強く感じてしまう。これが行動経済学の「プロスペクト理論」だ。アンカリング効果と同じく、カーネマンが提唱したものだ。
価格の場合、下図のように人は「当たり前」の価格よりも100円安いと「ちょっと得をした」と感じる。しかし「当たり前」の価格よりも100円高いと、「すごく損をした」と感じてしまう。そして人はこの損失を回避しようと行動する。
だから値段を安売り前に戻すと、売る側から見れば「元の価格に戻しただけ」なのに、お客さんから見ると「当たり前」と思っていた価格よりもずっと高いお金を払う感覚になってしまう。お客さんは損したくないので、買わなくなる。
このような状況を避ける方法は、とても簡単だ。価格を元に戻すくらいならば、そもそも最初から安売りをしなければよいのである。