「ユニクロは安い」と思っていないだろうか。3年前、ユニクロは日本国内で10%の値上げを行ったが大失敗し、価格を元に戻した。一方、海外では「ユニクロは安い」というイメージは薄い。この違いはどこにあるのか。マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏は「日本では価格破壊を起こしたリーダーというイメージが強すぎる。これは行動経済学からも解説できる」と指摘する――。

※本稿は、『なんでその価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

値上げで離れたユニクロのお客さん

行動経済学の中でも、価格戦略を考える上で重要なのが「アンカリング」の考え方だ。(詳しくは「1円の水を100円で売る方法」「"指輪は給料3カ月分"を信じる新婦の哀れ」を参照)。このアンカリングの仕組みを理解しないと、いい商品であってもなかなか売れなくなってしまうのである。

永井孝尚『なんでその価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」』(PHP新書)

あの商売上手のユニクロも一時期、連載第2回で紹介したアンカリングの罠に陥ってしまった。もともとユニクロは、国内アパレル業界で価格破壊を起こしたリーダーだ。しかし最近のユニクロは、海外有名デザイナーとコラボしたり、新素材ウェアを発売したりして、高付加価値路線も模索している。

そこでユニクロは、2015年に日本国内で10%値上げした。価格勝負から、価値勝負への大転換を図ったのである。しかし客数14.6%減、売上11.9%減という大失敗に終わってしまった。翌年、ユニクロは価格を元に戻したが、客数は元に戻らなかった。

「安売りイメージ」を克服できない

ユニクロは、日本国内では「価格破壊を起こしたリーダー」というイメージがあまりにも強いので、多くの人は「ユニクロは安いウェア」と強くアンカリングされている。だからなかなか価格を上げることができない。

価格破壊でビジネスが成功した代償は、「安売りイメージ」が定着することだ。アパレル業界の覇者ユニクロといえども、国内市場の「安物イメージ」は克服できない。

そこでいまユニクロは、世界全体で事業展開を行う方針に切り換え、世界の様々な地域の顧客の期待に応えようとしている。既に海外では日本発の有力ブランドだ。海外市場では、「ユニクロ=安物」というイメージはない。2018年、ユニクロの海外売上は国内売上を超えた。