無借金経営は、いざというときに危ない

マスコミではよく無借金経営の会社を持ち上げて報道します。「あこぎな金貸しに頼らずに自前の金で立派に経営を行っている。素晴らしい」と言うのです。

三條慶八『儲かる会社に変わっていく社長の全テクニック』(KADOKAWA)

それは完全な間違いです。確かに、銀行に頭を下げる必要もないし、借金の返済に追われることもない。資金繰りで日々苦労している経営者にしてみれば、夢のような話です。

しかし、私がこれまで何千社の企業を見てきた中で、無借金経営というのは、儲かりすぎて借金の必要がないというより、借金してまで事業を拡大したくないから無借金となっているケースが実に多いです。決して経営手腕が優れているわけではありません。

そして、この無借金経営はいざというとき、会社のもろさを曝け出してしまうのです。

「先に恩を売っておく」と考える

「うちの会社は市場での地位を確立しているし、取引先とも順調で、経営危機などありえない!」

そうでしょうか? 経営危機とはどこから来るものかわからないものです。

たとえば、今年も残念ながら日本各地で災害の被害がありました。これはどんな優秀な経営者でも避けることのできない事態です。被害の状況によっては緊急に融資が必要となることもあるでしょう。

しかし、無借金経営の社長が、急な資金が必要になって銀行に駆け込んでも、おいそれとは金を貸してくれません。銀行は、借り入れ実績があって返済も遅滞のない会社を優先します。返済した実績が信用となるのです。

借入枠に余裕があれば可能でしょうが、災害のように各地で被害が出た場合、各社が一斉に緊急融資を申請するはずです。その時に、いかに無借金経営で返済能力があるといっても、日頃から取引のある「お得意様」が優先されるのは自明の理です。特に日本は「お得意様」を優先する気風が強い国です。

また、これは銀行に限りませんが、初めての取引の場合はいろいろと時間もかかります。借金の経験がなければ書類づくりも手間がかるはずです。

そうならないためにも、日頃からの「お付き合い」が非常に大切となってくるのです。「馴れ合いなんて嫌いだ」という気持ちもわかりますが、リスク回避のために「恩を先に売っておく」と割り切り、銀行の借り入れ実績だけは作っておき、会社のいざというときに備えましょう。