「自分の家を持ち、その畳の上で死ぬ」──かつて日本人の多くはそんな往生をしていたかもしれない。しかし時代が変われば「終の棲家」も変わる。どこで暮らせば、安らぎを得ることができるのか。老後にふさわしい住居を検証した。

「駅から徒歩7分以内」の需要が上昇中

都心の駅近マンションと郊外の一戸建て。老後に安心して暮らすには、前者に住むのが手堅い選択だとされてきた。その理由は「トク(資産価値が落ちにくい)」であり、「ラク(利便性に優れている)」であるからだ。

不動産コンサルタント・長嶋修氏は、「リタイアしたら都心マンションから郊外や田舎の一戸建てに引っ越し、第二の人生を謳歌する例はごく少数です」と語る。

「一方、定年退職した高齢者世代が、郊外の一戸建てから都心の駅近マンションに移住するケースは多い。それだけでなく、駅から離れた一戸建てを売り、同じ駅から距離の近いマンションに住み替えすることも珍しくありません。駅近マンションであれば車の運転は不要。足腰が弱くなっても移動しやすく、介護される場合でも介護者が足を運びやすい。また子育てが終わって子どもが独立すると、広すぎる一軒家が必要なくなることも理由の1つです」(長嶋氏)

「ラク」だけではなく「トク」においても、今後、駅近マンションの需要は高まりそうだ。2017年の地価公示において、住宅地で全国ナンバーワンの下落率を記録したのは千葉県の柏市大室地区の8.5%だった。しかしその柏市の駅近物件は、上昇トレンドにある。

「これは柏市に限ったことではなく、広尾や元麻布などの超高級住宅街を除く一般的な住宅街では、駅近需要が高まる傾向が強くなっていくでしょう。物件検索サイトでは、5年前、賃貸でも持ち家でも検索の90%が『駅から徒歩10分以内』でした。それが今は90%が『駅から7分以内』。空き家の増加が示すように、需給の関係が崩れていて、どんどんニーズがきびしくなっています」(同)

同じ持ち家に20年以上住む50歳以上が、今後住み替えたいと考える住宅の内訳。持ち家と賃貸を含めたマンション希望は全体で50.4%。戸建ての37.9%を上回った。