銀行とIT企業の連携も進む

加えてMUFGは、テンセントとも提携している。決済データは、すでに行われた「過去の消費行動」に関するデータだ。一方でSNSのデータは今まさに行われている「現在の消費行動」のデータだ。これを用いることで、MUFGは訪日客がどのようなモノやコトを欲しているか、潜在的な需要を把握しようとしている。それは、銀行が新しい収益チャンスを獲得するために大切だ。

すでに三井住友FGはクレジットカードやモバイル決済など、複数の決済手段に1つの端末で対応するシステム開発に着手し始めた。この取り組みは、オンラインの決済処理サービスを手掛けるGMOペイメントゲートウェイと共同で進められている。

今後もわが国の銀行は、キャッシュレス決済のニーズやデータの取り込みのために、IT先端企業をはじめさまざまな企業と連携していくだろう。これは、新しいテクノロジーが経済を変化させ、企業競争を促進する良い例だ。

個人情報の保護も含めたルール作りを

こうした取り組みを進める上で欠かせないのが、個人情報の保護だ。SNS大手フェイスブックが個人情報を不正に第三者に提供していたようなケースが起きてはならない。この点で、わが国の産学官の連携によって、デジタル社会が進む中で、ユーザーが安心できる情報管理のルール、コンプライアンスの考え方などがまとめられ、実務に落とし込めるとよい。

その点で、経産省が設置した「キャッシュレス推進協議会」の役割は重要だ。期待したいのは、国内だけでなく、欧米など海外の産学官との連携だ。経済はグローバル化している。規格を議論し、まとめる上では、国内の発想だけでなく、海外の発想にも対応しなければならない。推進協議会がその発想に基づいて議論を進めることができれば、法制度の面で、わが国が世界のロールモデルになれる可能性はあるかもしれない。それくらいの意気込みが必要だ。

同時に、わが国は、現金を用いた決済の必要性も冷静に検討していくべきだ。大規模な自然災害が発生した際、電力の供給が寸断される可能性がある。その場合、ネットワークテクノロジーを用いたキャッシュレス決済は使えなくなる恐れがある。その際は、現金が必要だ。キャッシュレス決済のリスクにも備えておくべきだろう。

(写真=iStock.com)
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