90年代の政治改革論議は、それなりに理念があった

問題はそれだけでない。強調しておきたいのは、この選挙制度には理念がない、ということだ。

選挙制度に「模範解答」はない。それぞれ長所、短所がある。どんな政治体制を目指すのか議論した上で、それに合った制度を選ぶ。

1つの選挙区で1人だけ当選する小選挙区制は、2大政党制に導く傾向がある。選挙区内の投票者の半数近い支持を得なければ当選できないので、中小政党は淘汰されるからだ。その結果、当選者以外へ投票した有権者の意思は政治に反映されず「死に票」となる問題点が指摘される。

比例代表は、それぞれの政党の得票率に沿った議席があてがわれるため、民意は比較的正確に反映される。ただし1党が過半数を得るのは極めて難しくなり、多党制に向かう。政権が安定しなくなる傾向がある。

「拘束名簿式」と「非拘束名簿式」の違い

比例代表には「拘束名簿式」と「非拘束名簿式」とある。「拘束」は候補に順位がつけられていて、党に割り振られた議席数の順位以上が当選する。5人当選なら1位から5位まで当選する。党が重要視する候補を順番に当選させることができるが、有権者は当選者を選ぶことはできない。

「非拘束」は候補者に順位がつけられておらず、個人で多くの票を得た候補が優先的に当選する。有権者に当選者を選ぶ権利が与えられるが、党側が絶対当選させたい幹部や重鎮が落選するリスクを伴う。

定数2人から数人の中選挙区制は、小選挙区と比例代表の中間的な議席配分になる傾向があり、日本の衆院は長い間、この制度だった。その結果、自民党を中心とした政権が続いてきたが、1つの選挙区で同じ政党の候補が争うため、政策は度外視してサービス合戦となり金権政治となった。

その反省から、二大政党制度に導く小選挙区制を中心にしながら、激変緩和措置として比例代表も導入する現在の小選挙区比例代表並立制ができた。1990年代のことだ。賛否はあるが、それなりに目指す政治の姿があった。当時の国会審議の議事録をみても、二大政党制を目指すか、穏健な多党制を目指すのか、党派を超えた激論が交わされていたことがうかがえる。