なぜ小澤征爾さんは舞妓や芸妓に人気があるのか
――一流と呼ばれる方たちは、どんなところが普通の人と違いますか。
一流の人たちは、芸事をやってはる方が多いですね。小唄やお能、お茶でもお花でも、お稽古事を習って、行儀作法を身につけてはります。芸事というのはエチケットがものすごく厳しいですよね。お茶のお点前やったら、右足から入って左足から出るとか、座る行儀作法もしっかりしてます。言葉遣い1つにしても、上下にかかわらず相手に対して敬う言葉を使ってしゃべらなあきません。お稽古事は人としての風格が身につきますから、みなさんも習わはるといいんとちゃいますかね。お座敷に遊びに行っても、お仕事の現場でも礼儀正しい振る舞いができて、恥をかかへんようになると思います。
オムロンの立石さん(義雄名誉会長)は、お能の謡(うたい)のお稽古してはったさかい、立ち居振る舞いがほんまに鮮やかでした。身ごなしがぐしゃぐしゃしてないし、しゃんとしてて、お行儀がよかった。立石さんもお父さんに連れられて祇園に来はりましたね。お父さんもしゃんとしたお方でした。京都の人は、子どもの時分からお稽古事させられるんでね。それこそ門前の小僧習わぬ経を読むではないけど、お父さんがやってはったし「あんたもおし」ってお稽古する人が多いです。
――ところで、偉くなる人というのは、若い頃に見てわかるものですか。
それはわかるときがありますね。何かね、違うものがある。どう言うたらええかな。「この人ちょっと違うな」っていうのを感じます。役者でも「この役者ようなる」というのは見てわかりますやろ。そんな中でも特に小澤征爾さんはオーラがありました。世界的に有名になる前から知っていたんですけど、お座敷でも優しいし、舞妓や芸妓にも人気がありました。練習も見学させてもらったことがあるんやけど、そこでも優しい。「こら、そこ違う」なんて怒ることは一切ありません。「ここに素晴らしいサラダがある。だけど一振りドレッシングが足りない」。そういう教え方をしはる。注意されてるほうも緊張がほぐれます。上手に教えはるんで場が和みますし、みんながついていきますよね。オーケストラは150人もいる大所帯やし、一人ひとり気性も感性も違います。それを小澤さんの持つ“人の力”で1つにさせる。それはすごいことです。みんなに「この人のためだから頑張ろう」という気持ちにさせるんやろうね。それであれだけ繊細な音を奏ではるんやから、ほんま天才ですやろ。
どんな世界でも同じですけど、一流になる人は、所作や振る舞いが体に染み込んでるような気がします。そういう人が上に上がっていかはる。よう言う“社長の器”みたいなもんかもしれません。ただ、そういう資質があっても、うまく芽が出るかどうかは本人の心掛け一つやと思う。途中であかんようになる人は威張ったり、驕り高ぶりが滲み出てくる。面白いもんでね、上にいかはる人は、支店長くらいのときに「あの人もっと偉うなりはる」っていうのがわかります。会話や所作に品格が出てきはるからです。