「ローカルルール」に熟達すれば通用した時代

仮に労働市場が流動的で、企業間の移動が普通であれば、入社時以降にも転職・再就職の際にシグナルが必要とされます。したがって、入社時以降の勉強が必要になるでしょう。しかし、日本ではそうしたことは、まれにしか生じませんでした。

野口悠紀雄(著)『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』(KADOKAWA)

入社後に必要とされるのは、一般的・普遍的な知識ではなく、その企業に特殊な知識です。その企業における仕事を進めるための知識がまず必要ですが、それだけではありません。社内の権力関係や人間関係などについて、無知であるわけにはいかず、場合によっては、それらの知識を使って、「社内派閥のどの側につくか?」を判断することこそが重要でした。

社会人になってから後では、一般的な勉強はあまり問題とされなかったのです。特に管理者層になると、スペシャリストではなく、ジェネラリストとしての能力を要求されることが多いので、そうなりました。

こうしたことが可能だったのは、日本経済が順調に成長していたからです。そして、経済社会の基本条件が大きく変化することがなかったからです。

これまでの仕事を「破壊」するテクノロジー

ところが、ITによって、経済社会は大きく変わり、これからも変わり続けます。これまであまり技術進歩の影響を受けなかった金融部門も、フィンテック(ITを応用した金融サービス)によって大きく変わろうとしています。いま、産業革命と似た変化が起ころうとしているのです。

このため、学歴があれば安泰という考え方は、過去のものとなりました。また、学校時代に習ったことは、あっという間に陳腐化します。新しい技術の中にはディスラプター(破壊者)も多くあり、これまでやってきた仕事が、技術進歩によって消滅してしまうのです。

ディスラプターが登場する時代には、自分自身を教育し直すことが必要になります。社会の変化が急速になると、勉強し続けていないかぎり、社会の変化についていくことができなくなります。

そのためには、独学しか方法がありません。他方で、情報技術の発展によってさまざまな手段が使えるようになったので、独学のための環境は大きく改善されました。技術の進歩は、独学の必要性を高めると同時に、独学を容易にしているのです。