「西海岸がアメリカを救った」という事実

では、第2次大戦後の超大国アメリカをけん引し、東海岸エスタブリッシュメントと近かった伝統的企業はどうなったのだろうか。

巨大企業の代表格として長らく戦後アメリカに君臨したのはゼネラル・エレクトリック(GE)とゼネラル・モーターズ(GM)だ。前者は東海岸のコングロマリット(複合企業)で、今では解体の危機に直面。後者は中西部の自動車最大手で、2009年に経営破たんして上場廃止になっている(国有化後に2010年に株式再上場)。

仮に西海岸がイノベーションの中心地の役割を担えず、ITビッグ5を生み出せなかったら、アメリカはどうなっていただろうか。GEやGMの現状に答えがあるのではないか。東海岸や中西部の旧来型産業の没落と歩調を合わせる形で、アメリカ全体も競争力を失っていた可能性がある。

いわゆる「ラストベルト(さびついた工業地帯)」ではアメリカの未来を担えないのだ。ラストベルトとは、中西部から東海岸にかけて自動車・鉄鋼・石炭など斜陽産業が集中する地域のことだ。失業率が高いなどで有権者のあいだで不満が鬱積し、ドナルド・トランプ大統領誕生に一役買った地域でもある。

要するに、西海岸がラストベルトの衰退を埋め合わせて余りあるイノベーションを起こしたことで、アメリカは21世紀になっても圧倒的な競争力を維持できているのである。西海岸の中心であるカリフォルニアは、2017年にGDPでイギリスを追い抜き、国として考えれば世界第5位の「経済大国」に浮上している。西海岸がアメリカを救ったと言っても過言ではない。

ポテンシャルを引き出せば日本全体を変えるきっかけに

もちろん、現時点では「福岡が日本を救う」という構図は多くの人にとって荒唐無稽に聞こえるだろう。東京一極集中の日本では、一地方都市が日本を救うという未来はなかなか想像しにくいはずだ。

とはいえ、半世紀前のアメリカ西海岸も同じだった。誰かが「西海岸がアメリカを救う」と予言したら、やはり荒唐無稽に聞こえたはずだ。

例えばシリコンバレー。米スタンフォード大学に籍を置く歴史家のレスリー・バーリンは2017年出版の著書『トラブルメーカーズ――シリコンバレーの発展』の中で「1969年、現在のシリコンバレーはシリコンバレーとさえ呼ばれていなかった。スモモとアンズの果樹園で知られる地域だった」と書いている。

マイクロソフトやアマゾン、スターバックスを生み出したシアトルはどうか。やはりITとは無縁であり、そこに本社を置く航空機メーカーのボーイングに経済的に大きく依存していた。同社による大リストラの影響で、1970年代前半には全米平均を大きく上回る2ケタの失業率に苦しんでいた。