「新人はAKBをコスプレフル装備で踊る」。そんな歓迎会を強制されたら、どうするべきか。まったく空気が読めない“僕”は、早稲田大学を卒業し、文句のつけようのないホワイト企業に入社するも、そんな歓迎会を開く企業文化を嫌い、約2年で退職した。だが、いま振り返ると「あれは一種のイニシエーションだった。一生懸命に振り付けを覚えるという未来もあったかもしれない」と振り返る。どういうことなのか――。

職場とはひとつの「部族」である

空気、読めますか。僕は読めません。

写真=iStock.com/Silberkorn

空気が読めないという症状はどちらかと言えばASD(自閉症スペクトラム)に多い症状だと言いますが、ADHD(注意欠陥多動性障害)の診断を受けている僕も「空気が読めない」と言われ続けて生きてきました。そういうわけで、初めて勤めた会社でも空気を読み損なって大失敗しました。

かつて新卒として就職したときは、「そもそも仕事ができない」などの大問題はあったのですが、それに加えて常軌を逸した空気の読めなさを遺憾なく発揮し、新卒としては記録的な速度で職場の嫌われ者になることに成功。見事誰も好意的に接してくれない、必要な情報すら回ってこないという状況に到達しました。本当に早かった。3カ月とかからなかったですね。結果、僕は2年もたずに職場から敗走することになりました。

例えば、僕は新人歓迎会で上司にお酌をせず、ひたすら飲んでいました。料理の取り分けなど一切やりませんでした。そういったささやかな積み重ねが、1日を台なしに、1年を台なしにしました。

職場というのは、言うなればひとつの部族です。このことをまずしっかりと理解してください。そこは外部と隔絶された独自のカルチャーが育まれる場所です。そして、そこで働く人の多くはそのカルチャーにもはや疑いを持っていません。あるいは、疑いを持つこと自体がタブーとされていることすらあります。それはもう正しいとか間違っているみたいな概念を超えて、ひとつの「トライブ(部族)」のあり方そのものなんです。言うまでもありませんが、それは排他的な力を持ちます。部族の掟(おきて)に従わない者は仲間ではない、そのような力が働きます。

「空気が読めない」人間はなぜ不利なのか

「空気を読む」とは、そのような部族の中に流れるカルチャーをいち早く読み取り、順応する能力です。僕にはこの能力が完全に欠けていました。欠けているだけならまだしも、そもそも順応する気がなかった。僕の失敗の一番致命的なところはそこだと思います。

僕の記憶に最も強く刻まれた部族の風習として、「新人はAKBをコスプレフル装備で踊る」というものがあります。僕は職場を辞めて以来、ことあるごとに「くたばれ」「クソが」「最悪だ」「全焼しろ」「テロの対象になれ」と各所でこの風習をこきおろし続けてきたのですが、退職から6年以上が経過して「あれは一種のイニシエーションだったのだろうな」と思うようになりました。今思えば、もっと一生懸命振り付けを覚えて、「僕はあなたの部族の一員になりたいです」とアピールしていれば違った未来があったのかもしれません。

もちろん、物事には限度があります。絶対に受け入れられない風習というものも存在し得るでしょう。僕も、今もう一度AKBを踊れと言われたらかなり悩み込むと思います。

世の中には「浜辺で全裸で踊り狂う」とか「致死的な量の酒を飲む」みたいな、そりゃさすがに尊重できねえわ、としか言いようのない文化を持った部族も存在します。給与や社会的な評価などを天秤にかけ、合わなければ即座に逃走しましょう。

また、部族の風習が法的に問題のある行為だったりすることもたまにあると思います。法治国家の住人として成すべきことを成しましょう。しかし、受け入れられるものはとりあえず尊重しましょう。それだけで、本当に多くのものが変わります。

一生懸命日本語を喋ろうとする外国人が好ましく映るように、その姿勢は伝わるものだと思います。まずは受け入れ、そして模倣しましょう。そして、敬意を示しましょう。生き残るために。