定番の家庭料理のひとつ、チャーハン。誰もが作り方にこだわりがあるだろう。よく聞くのが、「チャーハンには冷やご飯を使うとうまく作れる」という説。果たして、その説は正しいのか。『男のチャーハン道』(日経プレミア新書)で、材料や調理法はもちろん、鍋の種類や最適な温度まで、おいしいチャーハンの作り方を徹底的に調べ上げた土屋敦氏が、その謎に迫った――。

※本稿は、土屋敦『男のチャーハン道』(日経プレミア新書)を再編集したものです。

最大の敵は「鍋の温度低下」

チャーハンを作るとき、どんなご飯を使えばいいだろうか。

まず炊きたてを使うという選択肢がある。しかし、歴史をさかのぼれば、そもそもチャーハンとは、余った冷たいご飯を温かくしておいしく食べる調理法であり、むしろ、冷やご飯を使うのは当たり前の時代が長く続いていた。

ただ日本では、保温ジャーや保温機能付き炊飯器が一般化した戦後以降、保温したご飯を使う、という選択肢が生まれ、温かいものを使ったほうがよい、という主張も生まれたのだ。

家庭でパラリとしたチャーハンをつくろうとするときの大きな障害のひとつが、具材を入れた際におこる鍋の温度低下である。これを防ぐ工夫のひとつとして、投入するご飯の温度を上げておくという手もある。アツアツのご飯を使ったら、温度低下を抑えられるはずだ。そこで、まずは炊きたてのご飯を使ってみた。

なお今回の比較では、「ご飯の状態」以外の、鍋や材料、調理工程などの条件は同一にしている。

炊きたてご飯は炒めやすい、しかし……

中華鍋のもっとも熱い部分が350度になったところで卵、そしてご飯を投入すると、180度まで下がる。ちなみに冷やご飯のときは140度程度、かなり温度低下を避けられている。

実際、炒めているときの感覚からして違う。冷やご飯よりほぐれやすいのだ。中華おたまの底で押すと、簡単にほぐれる(ただし、飯粒ひとつひとつがきれいに分かれるというわけではなく、ところどころくっつき、パラパラ感はあまりなかった)。

お米を炊けば、デンプンの構造が崩れて糊(のり)のように柔らかくなる。しかし、冷める過程で元のデンプンの構造に戻ろうとして、だんだん硬くなるのだ。これを「老化」という。飯粒がくっつき合ったまま硬くなっていくため、隣の飯粒としっかり固着してしまう。冷やご飯をほぐすのは、炊きたてのご飯をほぐすより大変なのである。

となれば、炊きたてを使ったほうがパラパラになったのかというと、実はまったく違う。ほぐれやすくはあるのだが、仕上がったチャーハンはご飯が柔らかく、ベタつく感じがする。冷やご飯を使ったほうが飯粒に弾力があり、ほぐれきらないところがあったとしても、全体の食感はパラリと感じるぐらいだ。

たしかに炊きたてご飯で温度低下は抑えられたが、冷やご飯のように水分が飛んでいないため、ベタついたのだろう。

冷やご飯のメリット「水分が飛ぶ」

そこで冷やご飯はどれくらい水分が飛んでいるのか調べてみた。米2合(300グラム)を洗い、水に20分間つけた。この浸水時間はごく一般的なものだろう。米は水を吸って374グラム。それを内釜に入れ、ちょうど目盛りまで水を加えると700グラム。それを炊くと、660グラムのご飯になった。