地面師被害より数倍痛い“お家騒動”
戸建て住宅最大手の積水ハウスの経営が揺らいでいる。
2018年1月期の通期連結決算は収益ともに過去最高を更新し、積水ハウスの「常勝」ぶりは健在だった。ところが、「地面師」による土地取引詐欺事件をめぐって経営責任が問われる事態となり、和田勇会長(当時、現取締役相談役)が辞任した。これは事実上の解任とみられている。
同社は2008年のリーマンショック以後、順調に業績を拡大してきた。この事態は、この10年での最大の危機といえる。だが危機はこれで終わらない。屋台骨である住宅市場の縮小が避けられないからだ。2月に発足した新経営陣は、「新しいガバナンス体制の構築」だけでなく、もうひとつの危機への対応を迫られている。
積水ハウスは1月24日、仲井嘉宏取締役常務執行役員が2月1日付で社長に昇格するトップ人事を発表した。同日開催した取締役会で、阿部俊則社長が会長に就き、和田会長が取締役相談役に退き、4月26日の株主総会後に取締役を退任する人事を決議した。
同社は2008年4月以来、「和田会長-阿部社長」という体制を続けてきた。新社長の仲井氏は、阿部氏より14歳も若い52歳。トップ交代については「若い力に期待する」(阿部氏)と、今後の住宅市場縮小という事業環境に備えた「世代交代」を強調していた。
しかし、事態は急変した。「地面師」による土地取引詐欺事件の責任問題を巡って、和田氏と阿部氏が対立し、和田氏が解任に追い込まれた事実が表面化したからだ。
同社は17年に東京都品川区の分譲マンション用の土地取得をめぐって、63億円を支払ったのに所有権が移転できず、55億5900万円の損害が発生した。1月24日の取締役会では、和田氏が「詐欺事件について責任を明確化する」として、阿部氏の社長解任動議を出したが否決された。
その後、阿部氏が「新しいガバナンス体制を構築する」として、和田氏を解任する動議を出したところ、和田氏が辞任を表明した。和田氏は阿部氏の責任を追及したはずが、返り討ちにあったわけだ。社内で圧倒的な力を持っていた「ドン」の電撃的な退任は、世間に驚きを持って受け止められた。トップ交代の記者会見で強調されていた「世代交代」とはなんだったのか、という声は根強い。