「明日への遺言」は法廷劇だ。裁判の様子が続き、しかも英語のセリフも多い。大きなアクションもCGの多用もない、いたって地味な映画といえる。だが、劇場のシートに座り、じっと見ていると頭のなかにさまざまな考えが浮かんでくる。スクリーンと対話しながら見る映画だろう。藤田はいう。
「この映画はアメリカのサンタバーバラ国際映画祭に出品し、2度、上映されたそうです。私は仕事の都合で行けなかったのですが、小泉監督は現地に行っておられた。監督の話では上映が終わってから5分間、観客はスタンディングし、そして拍手が鳴りやまなかったそうです。アメリカは現実にまだ戦争をしているでしょう。彼らのほうが戦争というものを実感している。絶対に戦争をしてはいけないという気持ちを今の日本人よりもよほど持っているのではないでしょうか」
「明日への遺言」の軍事裁判シーンで、岡田中将は「責任は私ひとりにある」との主張を続ける。藤田まことはその姿に「日本人の品格」を感じたといっている。「岡田中将が法廷で最後まで戦うと決めたのは部下のためです。同じくB級戦犯として訴追された19人の部下を減刑させるために岡田中将は強い信念で戦った。その精神に少しでも触れることができたらと私はこの映画に出たのです」
「明日への遺言」は戦争映画だと評されているところもある。
しかし、この映画は戦争や処刑が主題ではない。リーダーが部下のために力を尽くす誠意や、そして部下との友情を扱ったものだ。部下を持つビジネスマンにとってはさまざまなことを考えさせられる映画なのである。(文中敬称略)
(芳地博之=撮影 ノンフィクション作家 野地秩嘉=文)