「インカム・ゲインにこだわるな」

第一に、高齢であるということはお金の運用にあって特別な問題ではないということを理解しましょう。標語風に言うなら「ポートフォリオにまで年を取らせる必要はない」ということです。ちなみに世界一有名な投資家と言っていい米国のウォーレン・バフェット氏は現在87歳ですし、彼の仕事上のパートナーであるチャーリー・マンガー氏はさらに93歳ですが、共に現役の運用者ですし、自分達が高齢だからと言ってリスクを小さくして運用するようなことはありません。

人が、若くても、高齢でも、運用の目的は「お金をなるべく安全に増やすこと」以外にありません。「高齢者に向いた運用商品がある」という考えは、手数料の高い運用商品を売りたがっている金融機関が世に振りまいている作り話です。

判断力さえ確かなら、運用方法は若い頃と同じで全く構いません。例えば、現在なら、リスクを取る運用は内外の株式のインデックス・ファンドを買うといいでしょうし、リスクを取りたくなければ個人向け国債変動金利型10年満期と普通預金でいいでしょう。

第二に気を付けてほしいことは、「インカム・ゲインにこだわるな」ということです。インカム・ゲインとは利息や配当、投資信託の分配金など主として定期的な現金収入を指しますが、金融機関は、インカム・ゲインに注意を引いて高齢者を手数料の高い毎月分配型の投資信託などに誘導するセールスの手法を広く使っています。例えば、公的年金の不足額を定期的な分配金で補うといいと提案して、「自分年金を作りましょう」などと勧誘する手口です。

『山崎先生、将来、お金に困らない方法を教えてください!』山崎元著 プレジデント社

実際には、分配金が頻繁にある投資信託は税制上不利ですし、商品としてはリスクが大きく、手数料が高いことが多い(現存の毎月分配型投信は金融論的に100%ダメなものばかりです)。仮にリスクを取っていいとしても、別の形でリスクを取り、生活費の補填は普通預金を取り崩すのが、手数料の節約の面でも、資金管理の面でも正解です。高齢になると、リスクを落として利息や配当金などインカム・ゲインを中心に運用すべきだという通念は昔からあり、現代にも残っていますが、「誤った常識」です。

第三番目の注意は、「判断力の喪失に備えよ」。ということです。例えば、へそくりを通常の取引行とは別の銀行に預金したまま、急逝したり、あるいは認知症にかかって忘れたりしたとしましょう。資金の動きのない「休眠預金」になる訳ですが、10年たつと銀行本店の利益となって没収され、同時にデータの保管期限が10年であるため、後から家族等が発見し、これを取り戻すことが極めて難しくなります。

せめて、自分の金融的な財産が「どこにあるのか」ということは、家族など、「信頼できる誰か」と共有しておくことが必要です。一人暮らしの高齢者などの場合に、司法書士や弁護士などを後見人とするケースもありますが、ところが、この後見人が金融機関と裏で手を結ぶ場合もあるなど、最晩年の財産管理は油断ができません。また、配偶者なのか、子供なのか、子供が複数いる場合に、一体誰を信頼するのかも難しい問題です。「本当に信頼できる人を持つ事ができるか」は、つくづく人生の大問題です。

山崎元(やまざき・はじめ)
経済評論家、マイベンチマーク代表取締役
1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業、三菱商事に入社。野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て現職。専門は資産運用。楽天証券経済研究所客員研究員。