「日本三大ほら吹き」の発想法

【佐山】たとえ1%の確率だとしても、孫さんはこれはと思われたらやられるでしょう。私は、経営者は従業員に夢を与えなくてはいけないと思います。孫さんはもう、とんでもない夢をぶち上げますね。びっくりすることばかり言われます。

福岡ソフトバンクホークス・後藤芳光社長

やはり、素晴らしい経営者は目線が高い。孫さん、柳井正さん(ファーストリテイリング社長)、永守重信さん(日本電産社長)の3人は、自分たちを「日本三大大風呂敷」と呼んでいますね。みんなが驚くようなことを目標に掲げますが、数年後にはそれを実現している。私はそれが理想の経営者だと思うんです。時折「社長として大過なく務められた」と語る経営者の方がおられますが、大過なくやったということを成果だとおっしゃるのは、何もしていないことと同じだと思います。

【後藤】永守さんと柳井さんにはソフトバンクグループの社外取締役をお願いしています。孫さんと合わせて3人で「日本三大ほら吹き」とも言っています(笑)。

孫さんの有名な話で、福岡は南区の雑餉隈というところで事業を始めた時、2人の社員を採用したそうなんです。そして自分はミカン箱の上に乗って、2人に対して演説をぶったと。「自分はこの会社を豆腐屋みたいに1兆、2兆と数えられるくらいにもうかる会社にするんだ」と言ったら、2人とも1週間で辞めてしまったそうです(笑)。

しかし、当時から彼は至って真剣で、10年ほど前には売上高を1兆、2兆と数えられる会社になっています。今年、孫はこう言いました。「ついに利益が1兆円を超えた。利益で1兆、2兆と数えられるようになった」と。しかも孫さんは、「まだまだこれからだな」と言うんです。すごい経営者だなと思います。

「時間は限られている」という事実を考える

【佐山】帝人の技術者を振り出しに、銀行、ファンドと仕事をしてきましたが、スカイマークのような事業会社の経営に関わるのは初めてです。毎日が勉強で、今が人生でいちばん充実しているという実感があります。私は63歳ですので同級生の多くがリタイアしていますが、いまや「人生100年」の時代です。退職後の 40年を余生としてすごすのはもったいない。

だから、私は実年齢に10歳足して考えることを勧めています。10年後の 73歳の自分になったつもりで今の私を見ると、めちゃめちゃ若いんです。そう考えると、今だからできることがたくさんありますし、引退している場合ではないんです。「いくつになっても10年後より10歳若い」と考えると、死ぬ直前まで若い気持ちでいられるのではないかと思います。

【後藤】ソフトバンクグループ全体の経営の考え方も同じです。孫さんは、常に結果から逆算して考えるんです。自分たちのめざす成功のイメージを考えたら、それを実現するためには何をしなくてはならないかを逆算していくと、今やるべきことがおのずと見えきます。それだけ先々のビジョンを強く意識して経営をしています。

そして孫さん自身が、時間を大切にしています。人生には限りがあるから、その中でどこまで自分がおもしろくできるかをいつも考えていて、常に「もう時間がない」と。

【佐山】孫さんはゆっくりしたいと思うことはないでしょう。

【後藤】孫さんから学んでいることは、人間が一生のうちでどれだけデカいことができるのかをどこまで追求できるのかというテーマです。このテーマに向き合う時に、人生と生業(なりわい)の問題から目をそらすわけにはいかないということだと思います。だから彼は意思決定をとにかく急ぐんです。僕らから見ても生き急いでいるように見えちゃうけれども、それくらいのペースが、彼には合っているんだと思います。

【佐山】私も、今は三段跳びで言うと「ホップ、ステップ、ジャンプ」の「ス」の段階なんだと思っています。ただ、それは人それぞれですから、のんびりした人生と、私みたいなバタバタした人生の、どちらがいいということはないと思います。個人の人生観ですね。