3000人処刑の「核心」とは
その後、若い金正恩を背後から操ろうと、張成沢は妻を通じて、李雪主を金正恩に引き合わせ、李は間もなく妊娠し、金正恩は李と極秘結婚したというのだ。
だが金正恩が、ある芸術団の事件を調査している中で、愛妻と張との「過去」を知ってしまった。それが張を含む3000人が無残に処刑された「張成沢粛清事件」の核心だというのだ。
李は粛清されずに、それ以来、一層パワフルになっていったという。李はあたりを憚ることなく、夫・金正恩の執政にズケズケと口出しするようになったそうだ。面白くなければ週刊誌ではない。だが、北朝鮮情報をこれほど面白く読ませる書き手はいない。
私が最初に知った近藤は、東大出の週刊誌には向かない青白いひ弱な青年だった。だが、当時から語学には天才的なものがあった。英語はアメリカ人がネイティブと間違えるほどで、韓国語も流暢だった。
その後、北京大学に留学して中国語をマスターし、おまけに同級生だったと思うが、中南海の令嬢と結婚した。台湾語も北朝鮮語も話せる。1990年の金丸訪朝、2002年と2004年の小泉訪朝団にも記者として同行している。
北朝鮮式のスパイ教育『なりすまし』
言葉ができて、奥さんは中国人という最強の“情報ソース”を手にしている近藤だが、それだけでスクープが取れるほど北朝鮮のガードは甘くはない。
北朝鮮情報を手に入れる彼なりの「奥義」があるに違いないと、今回、この原稿を書くために聞いてみた。以下は彼の発言を私がまとめたものである。
「北朝鮮に関しては、北朝鮮式のスパイ教育『なりすまし』を参考にしました。日本人を拉致するために北朝鮮人が日本人になりすまして、日本へ侵入したり工作活動を行ったりするときの教育です。
1.徹底した日本語習得 2.日本の文化や習慣の習得 3.日本の歴史学習 4.日本人的発想の習得です。これを逆に北朝鮮に対して10年ほどやりました。
2009年から講談社北京で3年間勤務しましたので、できるだけ多くの北朝鮮人たちと付き合うようにしました。金正哲(金正恩委員長の実兄)や、別の金ファミリーの男性とも中国で会い食事をしました。
ただ、北朝鮮幹部たちの場合、その多くが一期一会で、なかなか次につなげることができませんでした。そんな中で、外国人でも自由に平壌に行き来し、現地の幹部と接触できる人がいることを知り、時間をかけて、彼らとの信頼関係を築いていきました。外交官、ジャーナリスト、ビジネスマンなどで、国籍もさまざまです。
今回はたまたま、北京時代につちかった強力なルートの中の一人が、平壌へ行って朝鮮労働党幹部と会うというので、質問を託しました」