議員辞職、離党、番組降板に追い込むと満足する

2)羨望=他人の幸福が我慢できない怒り

有名人の不倫が報じられると、「けしからん」「許せない」などと声高に叫びながら、一緒になってたたく人の胸中には、羨望が潜んでいる可能性が高い。

「羨望というのは、他人の幸福が我慢できない怒りなのだ」と言ったのは前出のラ・ロシュフコーだが、まさにその通りで、不倫が発覚した有名人が手にしている「幸福」が我慢できず、怒りを覚える。

羨望の対象になる「幸福」は大きく二つに分けられる。一つは、自分がやりたくてもやれないことや、やりたいのに我慢していることを易々とやってのける「幸福」。もう一つは、有名人が手にしている成功、名声、富などの「幸福」。

だから、自分自身も不倫願望を抱きながら、それほどモテないとか、その機会がないという人ほど羨望にさいなまれやすい。また、有名人が手にしている成功、名声、富などと自分は無縁だったことで欲求不満を抱いている人も、羨望にさいなまれやすい。両方そろっていたら、それこそ羨望の塊になり、不倫が報じられた有名人を、これでもかというくらい激しくたたく。

不倫有名人が出演するCM企業に電話

こういう人は、羨望の対象である有名人を引きずりおろさないと気がすまない。そのため、ネット上の掲示板に書き込んだり、不倫が報じられた有名人がCM出演するスポンサー(広告主)に電話したりする。その結果、降板や活動休止、議員辞職や出馬断念などに追い込んだら、満足するようで、さすがにバッシングはおさまる。

民進党の山尾志桜里議員の不倫疑惑を報じた『週刊文春』(9.14号)。山尾氏はこの報道を受ける形で同党を離党した(読売新聞9.8付け)
3) 怒りの「置き換え」=鬱憤を晴らすため“弱者”に怒りぶつける

有名人の不倫に激怒するのは、腹の中にたまった怒りをぶつけて鬱憤を晴らしたいからにすぎない場合もある。上司に怒られたり、同僚ともめたりして、怒りがたまっているが、そのはけ口がないと、誰でもいいから怒りをぶつけたくなる。

これは、劇作家の寺山修司が見抜いているように「怒りというのは排泄物のようなもので、一定量おなかのなかにたまるとどうしても吐きださざるを得なくなる」からだ(角川文庫『家出のすすめ』内のエッセー「醒めて、怒れ!」)。

ところが、怒りの原因になった当の相手が自分より強い立場だと、怖くて、怒りをぶつけられない。そのため、怒りの矛先を弱い相手に向け変える。これを精神分析では「置き換え」と呼ぶ。