小池都知事と小池新党である「都民ファーストの会」がこれから何をしてくれるのかを冷静に考えて投票した都民はほとんどいなかったと思う。だが結果として「都民ファーストの会」は追加公認を含めて55議席を獲得して第一党に躍り出た。

旧来の利権構造に取り込まれて与党化するか

医師や弁護士、公認会計士など多彩な専門家が集まっているようだから都政に新風を吹き込むことを期待したいが、当選者の大半は政治経験がなく、政治的資質は未知数だ。「平成維新」の旗の下で具体的な政策を掲げながら、それを共有したはずの政治家が現実を何一つ動かせなかった苦い経験が私にはある。「都民ファーストの会」が東京大改革、都政の変革という初心をどこまで貫けるのか、見守っていきたい。

都知事と議会の関係がどう変わるかも注視したい。都知事も都議も都民の直接選挙で選ばれる「都民の代表」だが、都知事は東京都という地方自治体の行政の長である。議員代表制により国会の指名で決まる総理大臣よりも直接権限を持っている。人事権を持つだけではなく、都の役人と相談しながら予算を組んだり、条例案や各種のプロジェクト案を策定したりしていく。そうした予算案や条例案を審議・決定するのが都議会の役割だ。

選挙で選ばれた行政のトップである首長と行政のチェック機能を持った議会の関係を「二元代表制」という。小池都知事が「都民ファーストの会」の代表を辞したのは、都知事が都議会第一党の党首を兼ねるのは二元代表制のチェック機能を損なうとの懸念からだろう。しかし、そもそも都議会が行政のチェック機能を果たしてきたとは思えない。何しろ、行政が出してきた議案を都議会がつぶしたことは過去に一度もないのだから。

一般会計で7兆円、特別会計を加えると東京都の予算は約13兆円。潤沢な財源を自分たちで都合よく使い回すために、都庁の役人はさまざまな利権を餌に長年、議会工作をしてきた。都庁と都議会の癒着の闇は深い。小池都知事がそこにどこまで切り込めるか、第一党となった「都民ファーストの会」が二元代表制のチェック機能を果たせるのか、それとも旧来の利権構造に取り込まれて与党化するのか。そこが見物である。

「築地は守る、豊洲は生かす」の是非

「都民ファースト」は都政から置き去りにされてきた東京都民にはわかりやすく響く標語だが、それ自体に内容はない。議会を制圧した小池都知事には何を「都民ファースト」にするのか、いかに具体的な政策に落とし込めるか、が問われている。

たとえば「築地は守る、豊洲は生かす」と結論を下した築地市場の移転問題。中央卸売市場を豊洲に移したうえで、築地は5年後を目処に再開発して市場機能を確保しつつ、食のテーマパーク機能を有する一大拠点にする、という基本方針を都知事は発表した。築地跡地は売却せずに民間に貸し出すような形で再開発するという。

しかし豊洲市場の建設費約6000億円の大半は、もともと築地の売却益(約4000億円)で穴埋めする予定だった。築地を売却しないとなれば、豊洲の移転費用は都民の税金で賄うしかない。そこに築地の再開発費用も上乗せされるのだ。土壌汚染対策など豊洲と同等レベルで築地を整備・再開発するとなると、少なくとも4000億円はかかる。このままでは豊洲と築地の両立は、一挙両得の「都民ファースト」なアイデアとはならない。それどころか都の予算で再開発となれば新たな利権が生じて、小池都知事が巻き込まれる恐れすらある。