靴箱のように狭っ苦しい部屋

ザックは、靴箱のように狭っ苦しい部屋へ案内してくれた。幅4.5メートル、奥行き9メートルほどのその部屋に、20人の若い女性たちが2列に並んで詰め込まれ、じっとノートパソコンを見つめている。これがコンテンツ工場(ファクトリー)だ。本当に、そう呼ばれているのだ。そしてこの人たちはコンテンツ・クリエイター。本当に、自らをそう呼んでいるのだ。「もっとコンテンツがほしい? じゃあ、ここをクリックして!」――ブログ記事のそばにくっつけた小さな四角の中に、彼女たちはそう書いている。もっとコンテンツがある、とにおわせたことで、読者がサイトに留まってくれたらいいなあ、と願いながら。

私はにっこりして、列の前から順に、アシュリーやらアマンダやらブリタニーやらコートニーやらと握手していくうちに気がついた。この子たちのまさに2倍、いや、場合によってはそれ以上生きていることに。「ここに来る前は、どこにいたの?」と何人かに聞いてみたが、みんなけげんな顔で「えっと……大学?」と答えるから、その質問はやめた。全員が女性で、全員が白人。全員がジーンズをはき、全員が同じように肩まで伸びた自慢のストレートヘアをなびかせている。そして、どうやら全員が、私の存在に困惑してる。このオジサン、ここで何してるの? 私は微笑んで、もうすでにどの子の名前も思い出せないことに気づいていた。

著者:ダン・ライオンズ Dan Lyons
小説家、ジャーナリスト、脚本家。かつては『ニューズウィーク』誌のテクノロジー・エディター、『フォーブス』誌のテクノロジー記者を務める。彼のブログ「スティーブ・ジョブズの秘密の日記」は、ジョブズになりすましてシリコンバレーをブラックジョークで斬るという独創性で話題となり、月に150万人の読者を集めた。現在は、ケーブルテレビ局HBOの連続ドラマ『シリコンバレー』の脚本を執筆。『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』、『GQ』誌、『ヴァニティ・フェア』誌、『ワイアード』誌にも寄稿。マサチューセッツ州ウィンチェスター在住。
 

訳:長澤あかね
奈良県生まれ、横浜在住。関西学院大学社会学部卒業。広告代理店に勤務したのち、通訳を経て翻訳者に。訳書にエイミー・モーリン著『メンタルが強い人がやめた13の習慣』(講談社)、マーティン・ピストリウス著『ゴースト・ボーイ』(PHP研究所)、エイドリアン・トミネ著『キリング・アンド・ダイング』(国書刊行会)などがある。
 
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