Q.ファンをつかんで離さないために必要なことは?

人間の表情には、その人の本心が少なからず表れます。僕の漫画の特徴のひとつに、「表情の描き方」があるかもしれません。

振り返ると、子どもの頃から周りの人の表情を観察していました。小学生のとき、担任の女性教師が朝、ガラガラと教室のドアを開けて入ってくると、「今日は機嫌が悪いぞ」とか。この子はどうしてこういう笑い方をするのか、とか。

絵文字のようにシンプルにニコッと笑っている人などいません。40歳の人であれば、40年間の人生を引きずった笑い方になるのです。

喜怒哀楽の間には何百種類の感情が存在しています。そういう微妙な表情が人間の感情であるし、僕は漫画でそれを表現したい。だから、喜んでいるのか、怒っているのかがわからないような、複雑な表情を描いていきたい。読者はその何ともいえない表情から、登場人物の複雑な感情を感じとってくれていると思います。

Q.次から次へとアイデアを生み出す方法は?

「この積み木の上には、これが載る」と積み上げ式で考えると、決まりきった形になるからつまらない。

僕が漫画を描くときは、映画の予告編のような、いくつかの脈絡のないシーンから始めます。

『20世紀少年』の連載を始めるときは、「女の子が夜、アパートの戸を開けたら、外に巨大なロボットが立っているというシーンがこの漫画には出てくるだろうな」と思い、物語の冒頭にその光景を描きました。次のシーンでは店長が赤ちゃんを背負っている。その女の子と赤ちゃんが同一人物だとわかるのはその後、作品を描き進めた後なんです。

アイデアを熟成させるときはよく掃除をします。一見、まったく仕事をしているようには見えませんが、その間に漠然としたものが形になることがあります。

物語を面白くするためにはどんな努力でもします。面白いと納得するまで妥協はしません。もともと仕事ではなく、遊びで始めた漫画です。遊びに妥協なんてありませんよ。